進行性指掌角皮症について:2%サリチル酸ワセリン, UVB,消炎剤・抗ヒ剤など


 [症状]


 1) 20歳前後の女子で,特に結婚・出産などで急に水仕事の増えた機会に発症する.その他,タイピスト・ピアニスト・キイパンチャーのような指を使う職業と関係する.

 2)指尖端掌側に始まり,中枢方向に進行.特に中・示・母指が侵される.指腹が主であり,掌面も侵されるが前腕に及ぶことはない.指背に及んでも末節に留まる.

 3)まず皮膚面が乾燥し粗槌となり,軽度に潮紅を伴い,粃糠様落屑,亀裂,特有の光沢,指紋消失を来すようになる.亀裂による疼痛はあるが,療痒は全くない.

 4)右利きの人は右手のみに,左利きの人は左手のみに,まれに両側が侵されても利き手の方が高度.

 5)冬増悪し,夏季は軽快して無症状となる.

 

 進行性指掌角皮症はわが国で見出された疾患で,欧米でこれに相当する病状はない.欧米学者で来日する人に見せれば,多くは接触皮膚炎の1型と診断する.最近,わが国でもこれを接触皮膚炎〔主婦手湿疹〕とみなすひとも多い.注意してみると,かなりアトピー素質とも関係がある.


[病因]水・洗剤・機械的刺激による.皮膚アルカリ中和能低下・汗分泌低下・末梢循環障害も証せられる.湿疹[主婦手湿疹]の1異型となす説も強い.基調に内分泌障害〔月経障害・甲状腺機能失調〕が重視されたが,今日では否定的.

〔鑑別診断〕①主婦手湿疹:湿疹としての多様性〔小水疱・潮紅・浮腫・浸潤一落屑など〕, 痒,指手背も侵される.②掌蹠膿疱症:膿疱,手掌足底中央に多い.季節的変動なし.③先天性掌蹠角化症:先天性,手掌足底ともに,角化大で炎症症状なし.④汗癇性湿疹:水疱の存在, 痒,鱗屑輪.

 〔治療〕①外的刺激を避ける〔家事制限・布裏打ちゴム手袋の使用・微温湯の使用・外出時に手袋〕,②外用療法〔5%サリチル酸ワセリン・ビタミンADE軟膏・尿素軟膏.亀裂大なら亜鉛華軟膏,炎症強ければNSAIDステロイド軟膏〕,③パロチン・ビタミンA・E.これらを行い,春季自然寛解まで持っていく.

〔症状〕

 I)初発疹plaque primitive (herald patch, tache mere, Primarmedaillon):主として体幹に直径1~3 cm の比較的大きい,卵円形の紅斑落屑局面が1〔~2〕個生ずる.辺縁は淡紅色で環状に鱗屑を有し

 〔襟飾りcollerette〕,中央はやや黄色を呈する.本症の2/3に見られる.

 2)7~10日後,急激に体幹・四肢中枢側にかけ,卵円形,辺縁落屑性の紅斑が播種状に多発する.この紅斑は大小不同,長軸をほば皮膚割線の方向に一致させている

 〔クリスマスツリー様〕.手掌足底・頭部は侵されず,顔頚部・四肢末梢も侵されることは少ない.この二次疹は初発疹より常に小さい.全身状態よく〔まれに不快感・微熱・食思不振〕, 痒はあってもわずかである.通常3~6週の経過をもって退縮していく.

  毛包性小丘疹が混じ,あるいは主体となることがある[丘疹型].ときに小水疱,じんま疹様膨疹紫斑,まれに粘膜疹〔口腔アフタ〕が混ずる.

 4) 20~30歳代に多く,小児・老人には少ない.また春秋の候に多い.再発はまずない.

 〔病因〕病巣感染アレルギー説,初発疹を原発疹とする自家感作皮膚炎説,ウイルス感染説,自己免疫説〔抗変性ケラチノサイト〕〔高木〕など. 中毒疹に本症の型をとるものもあり〔薬疹のジペル型〕,さらに脂漏性皮膚炎との近縁性もいわれている.

 〔組織所見〕表皮肥厚,海綿状態など,ほぼ湿疹に似る.
                                     
 [鑑別診断]①癜風:潮紅なし,徐々に進行し自然治癒せず,癜風菌陽性.②脂漏性湿疹:頭部に発して下降性,脂漏部位占位,③梅毒性ばら疹:鱗屑少ない,手掌足底侵襲,リンパ節腫脹,血清反応陽性.④乾癬:銀白色落屑,血露現象.⑤斑状小水癇性白癬:中心治癒傾向,水疱,小丘疹・落屑が環状に,より大きくかつ多発しない.真菌陽性.

 〔治療〕2%サリチル酸ワセリン, UVB,消炎剤・抗ヒ剤など適宜.薬疹の1型ではないか,原因薬剤の存在を調べる.