産後精神病


 出産後の軽いうつ症状は比較的よく見られますが、ときには重症となります。これに比べれば出産後の統合失調症様症状はそれほど一般的ではなく、一〇〇〇回の出産におよそ一回程度です。通常、出産後二千七日の間に出現し、妄想(たとえば赤ちゃんには欠陥があるとか、誘拐されてしまったと信じること)や幻聴(赤ちゃんを殺せという声)が見られることがあります。またうつ症状も認められることがあり、分裂感情障害の診断もよくされます。このような患者は不安定で予測かっかず、ふつうはよくなるまで子供は親から離します。通常、投薬すれば急速に回復し、たいていの場合二週間で症状は消失します。しかし数パーセントは症状が持続し、完全な統合失調症双極性障害になっていきます。

 この障害の原因はわかっていません。以前は、母親が子供にアンビバレントな感情を抱くことによる、といった心理的要因が原因であると信じられたこともありました。最近では、生化学的な要因の可能性、とりわけ出産後の大量の内分泌ホルモンの変化が注目されています。この説は、一部の女性統合失調症患者は、生理の前やその最中に規則的に症状が出やすいという観察もあって、より力を得ています。真正の統合失調症になった例は、実は妊娠しなくても発病したケースかもしれません。統合失調症は、出産を経験する年齢層に最も多く発病するので、偶然の一致はときに避けられないものです。

 メアリーははじめて女の子を出産したが、退院して三日もしないうちに夫は妻がおかしなことをいい、混乱していることに気づいた。そのうちメアリーが「子供を殺せ」という声が聞こえるといったため入院した。薬物治療を受け、一〇日もしないうちに症状は完全におさまった。

統合失調症」の診断は、このような病気には不適切です。