抗菌剤耐性

a. (突然変異と選択)
一般に突然変異というのは、DNA塩基配列に何らかの変化が起こることによって生じた遺伝的変化を言います。特に何の処理もしなくても、ある一定の頻度で起こっています。その頻度は極めて低く、ひとつの遺伝形質あたり1細胞、1分裂当たり10-5から10-8くらいです。このような低頻度では、我々の目に容易には触れないはずですが、遺伝情報の変化は表現型の変化を生み、その結果、一定の環境において生存の適・不適の関係が生ずるのが普通で、新たに生じた変異体がより適する環境では、元の親株に代わって優先的に増殖してきます。これが『選択』っちゅうわけです。ある抗菌剤に耐性の菌が低頻度で発生したとき、そこにその抗菌剤があれば、大多数の感受性菌の増殖が抑えられ、その抗菌剤に耐性の菌が優勢に増殖してくるのはその適例です。突然変異と選択により生ずる抗菌剤耐性には、結核菌のストレプトマイシン耐性とパラアミノサリチル酸耐性、ブドウ球菌の合成ペニシリン(メチシリンなど)耐性、肺炎連鎖球菌のペニシリン耐性、グラム陰性桿菌のナリジクス酸耐性などがあります。
b. 形質転換
形質転換は肺炎連鎖球菌で最初に発見され、DNAが遺伝情報の本体であることを確定するのに役立ちました。次いで枯草菌やインフルエンザ菌でも形質転換が行われるようになり、さらに大腸菌で成功するのに及んで、組み換えDNA時代の幕開けに大きな貢献をしました。供与菌から純粋な分子として取り出したDNAを受容菌と混ぜると、受容菌内にDNAが入り、供与菌の性質が受容菌に遺伝的に伝達されることを形質転換といいます。淋菌や髄膜炎金などグラム陰性球菌においては、死んだ菌のDNAが生きた筋に自然に入って形質転換を起こすほど効率がよく、耐性の伝播にも関与しています。