モーニングケアやイブニングケアの学習内容について

モーニングケアやイブニングケアなども,清潔の保持に関する学習内容などの再構成によって成り立つものとして考える。

 このように目標を設定していく過程では,看護実践を全般的に視野にいれながら教育内容の取り上げ方を考えることが重要となる。看護の援助行動を抽出しながら目標を整理するのは,ゴールを視野にいれながら教授・学習過程をつくることを意図しているためであるが,援助行動の量が膨大になってしまうと,その収拾にたいへんな時間を要することになる。そのためにも,事前に教育者の判断をいれて,教育の中心を占めるもの,およびその周辺の内容としてよいものとの選別が必要になる。

 第2段階では,第1段階で抽出した看護技術のそれぞれに対して,認知領域・情意領域および精神運動領域の内容を具体化することになる。その際には,全体の看護技術をみて類似の内容があればそれらをまとめて,先に示した考え方で整理するのもよい。しかし,この単元の第1段階の内容の取り上げ方が,すでに(1)から(7)までとして類似の内容をまIとめた形になっているので,それぞれを類似の項目としてその次の整理手順に移ってもよい。このような(1)から(7)までの内容とまとまりは,ある意味で小単元として扱うこともできる。

 「洗髪」では四つの看護技術があげられているが,関連技術の全般的な内容を抽出できるという理由で,そのなかから「ケリバードによる洗髪ができる」を選び,それを認知領域・情意領域および精神運動領域の3領域に分類する。内容の特性を考慮して分類し目標を整理する。

 「ケリバードによる洗髪ができる」ということは,洗髪に関する援助内容のうちの一つであり,実際に学習する内容は,このほかに洗髪車による洗髪,アルコール洗髪,および家庭用品を用いた洗髪がある。したがって,これらの内容についても,ケリバードによる洗髪で分析してきたような考え方で,内容を具体化する必要がある。しかし,洗髪ということでは同一の内容が多いので,先に示した類似の技術に対する内容の整理のしかたに準じるわけである。つまり,

 「ケリバードによる洗髪」に関する具体的な内容にその他の洗髪方法に必要な内容を加えて,洗髪全体に必要な教育目標を設定していくのである。

 「洗髪車による洗髪」で加える内容としては,精神運動領域に「洗髪車を装着できる」「洗髪車の操作ができる」を加え,「アルコール洗髪」では精神運動領域に「アルコールで毛髪の清拭ができる」,認知領域に「毛髪清拭時の使用アルコールの濃度・を述べることができる」を加える。さらに,「家庭用品を用いた洗髪」では,認知領域に「家庭用品を用いて,ケリバードないし洗髪車に代わる用具を工夫できる」「畳の上での洗髪時の術者の姿勢について述べることができる」を,情意領域に「家族への気くばりができる」を加える。

 第3段階としては,第2段階で具体化した内容の重複を整理することになる。その際には,本単元ではまず(1)から(7)までにあげたそれぞれの内容のまとまりで重複を整理し,ついで(1)から(7)の内容問の重複を整理する。

①各種洗髪用具の準備と後始末ができるけリバートの準備と後始末ができる).
②各種洗髪用具の固定と体位を整えることができる(ケリバードを装着し体位を整えることができる).
③お湯をかけながら洗うことができる(ピッチャーを用いてお湯をかけながら洗うことができる).
④結髪ができる.
⑤洗髪・結髪のしかたを指導できる.
⑥各種洗髪用具を用いて効果的な順序に従った一連の行動ができる(ケリバードを用いた洗髪ができる).

 

①頭皮・毛髪の生理機能を述べることができる.
②ゴム製品の手入れのしかたを述べることができる.
③頭部を清潔にする必要性を述べることができる.
④洗髪方法の種類とその使用範囲を述べることができる.
⑤各種洗髪用具の固定のしかたと体位の整え方の違いを述べることができる.
⑥各種洗髪用具の準備・後始末時のポイントの違いを述べることができる.
⑦お湯をかけるときの注意点を述べることができる.
⑧洗髪時の注意点を述べることができる.
⑨実施過程における観察の視点を述べることができる.
⑩洗髪の実施手順を述べることができる.
⑨洗髪・結髪の指導時のポイントを述べることができる.
⑩成人・ノ」、児および老人の洗髪時の留意点の相違を述べることができる.
⑩病室の条件や患者の行動範囲を考慮して,洗髪方法の選定・工夫ができる.

①洗髪時にその必要性を患者に説明できる.
②行動をかえるときにはそのつど行う内容の説明ができる.
③実施過程でたびたび苦痛の有無を尋ねる.
④同室者への気くばりができる.
⑤実施内容に関する自己評価をする.
⑥洗髪の過程で患者の反応に気づき,実施方法の改善に向けた提案ができる.
[注1]:評価をするにあたっては,各項目に必要に応じて,さらに条件ないし規準を設定し内容を限定する必要がある.
[注2]:精神運動領域では,( )内に示したように特定の内容を選択して評価することになる.

 前段階で3領域に分析した「洗髪ができる」に関する内容を考慮して,四つの洗髪に関する学習内容の重複を整理して新たな目標を設定すると,精神運動領域ではケリバード・洗髪車,その他の洗髪用具の準備と後始末,および各種洗髪用具の装着と体位のとり方ができるかどうかをそれぞれ一つにまとめて,

 各種洗髪用具の準備と後始末ができる」「各種洗髪用具の固定と体位を整えることができる」とし,認知領域では,方法の違いを問題にして「洗髪方法の種類とその使用範囲を述べることができる。各種洗髪用具の固定のしかたと体位の整え方の違いを述べることができる」のようにまとめることができる。情意領域については,すべての技術で同じ内容となる。これまで整理してきた「洗髪」に設定する目標をまとめると,表14のようになる。この段階における目標の整理過程では,臨床における看護の実践状況(発展目標)を視野にいれておく必要かおる。

 以上に示した「洗髪」に関する教育目標の整理・統合の過程を,本単元であげたその他の(1)から(6)の内容においても試みる。ここでは,紙面の都合で各項目の具体化は試みないが,本単元でまとめて目標を表示したほうがよいと考えられる内容には,先にも述べた(1)の清潔保持の面から必要な指導内容,皮膚の生理機能,衣服の選択,およびいくつかの援助方法が考えられる看護技術の方法の種類とその適用に関するものがある。たとえば,清潔保持面からの必要な指導内容について,精神運動領域では「身体各部を清潔に保つ必要性と頻度の高い方法の指導ができる」「身体各部を清潔に保つ必要性とその方法を,各種援助方法の違いを明らかにしながら指導できる」といった内容があげられ,認知領域では全身の皮膚に頭皮・毛髪を含めて「全身の皮膚および粘膜の生理機能を述べることができる」「皮膚および粘膜の生理機能の違いによる清潔にする方法の違いを述べることができる」といった表現をあげながら,求める能力をあらわす目標を設定していく。

 第4段階では,第3段階で整理された内容に対して,既習内容と新学習内容との分類を行うことになる。「洗髪」の内容でみると,認知領域では「解剖学・生理学」をすでに学んでいる時期にこの学習単元が入っていれば,「頭皮・毛髪の生理機能を述べることができる」は既習内容となり,そのほかにゴム製品を取り扱う内容を含む学習単元があり,それをすでに学んでいれば,その学習内容も既習内容ということになる。そのほか,成人・老人・小児などの特徴,病室内の環境などに関する内容がすでに学習されていれば,⑩,⑩の目標は問題にしやすい。さらに,情意領域では事前に看護技術の学習をしていれば,患者との対応のしかたについてはほとんどが既習内容となる。情意領域で新学習内容となるのは,必要な内容を患者に説明するタイミングと,洗髪と患者の反応との関係をとらえようとする態度である。

 第5段階では,第4段階で整理された内容に対して評価の段階を考慮しながら評価目標の設定(意思決定)を行い,その際には向上目標や発展目標の設定も考える。向上目標としては,洗髪の過程で患者の反応に気づくことや,その反応の意味を考えることなどがあげられる。発展目標には患者の個別的条件を考慮して洗髪することができるという内容をあげることになる。

 第6段階では,第4ないし5段階で設定された内容ないし目標をどのように組み合わせ,どのような順序で教授・学習を進めていくかを考えて評価計画を立てることになる。組み立て方の可能性としては, (1)第1段階で取り上げた七つの項目をそれぞれのまとまりとして取り上げ,しかも看護技術を中心にして,その広がりにおいて認知領域および情意領域の内容を含める場合、2)看護技術のなかで関連する基本動作のまとまりをつくって,その学習の広がりにおいて認知領域および情意領域の内容を含める場合, (3)認知領域・精神運動領域および情意領域の内容をそれぞれ個々に取り上げ,そのうち,認知領域は内容の特徴や類似性を問題にしてまとまりをつくり,精神運動領域では行動の特性をまとめて学習するようにしたり,さらに認知領域と情意領域,精神運動領域と情意領域の内容をまとめて内容を構成したりする場合、4)先に学習した内容が必ず後に続く学習に役だつような学習の転移を考慮したまとまりをつくる場合,などが考えられる。評価計画はまとまりのつくり方によって内容の取り上げ方が異なるが,表15に示したような目標は同じになると考えてよい。したがって,認知領域の内容と精神運動領域の基本動作は形成的評価で確実に取り上げるようにし,精神運動領域の基本動作の統合化と情意領域の内容は行動力を中心として総括的評価で収り上げる。

 これまで述べてきた目標設定過程は,障害により何らかの看護および治療・処置を必要とする場合の……一般的な援助方法で学習のまとまりをつくる場合も同様である。