蛋白尿:IgA腎症、膜性増殖性腎炎、メサンジウム増殖性腎炎や巣状硬化症の患者で注意


 正常な成人でも1日に100mg程度のアルブミンが尿中に排出されています。生命が維持されるために、生体の各細胞では、エネルギーを産生供給したり、その形態を保つために、蛋白質や糖質、脂質などのさまざまな物質の代謝が行われています。

 その結果、血液中に体に不必要ないろいろな分解産物がたまってきます。腎臓の大事な役割はこのような老廃物を体の外に排泄することです。血液そのものを体外に出してしまえばよいわけですが、血液はそう簡単に作ることはできませんし、また血液成分の中には体に必要な成分がたくさん含まれています。

 そこで、腎臓は効率よく体にとって必要なものを残し、老廃物だけを排出する「濾過」という仕事を行ないます。

 その最終的な仕事を担う部分が糸球休でり。糸球体は毛細血管の終末部に相当し、輸入動脈から入った血液が糸球体で濾過され、輸出静脈より腎静脈へ彑戻ります。糸球体では水分と伴に分子量の小さい老廃物や電解質が濾し出され、分子量の大きいアルブミンをはじめとする蛋白質や脂質さらに血球成分などは通らないような構造になっています。

 ところが、この糸球体に障害が生じますと、防波堤としての機能が低下し、アルブミンや血液(血尿)が体の外に出てきてしまうわけです。正常人でも糸球体からは少量の蛋白が滲み出してきますが、その大部分は尿細管で再吸収されて体に戻されます。

 その結果、再吸収されずに尿中に排泄される蛋白が、アルブミンとして1日100mg程度になるわけです。尿細管が障害されますと、再吸収できる蛋白が減少し、正常な人よりも多く蛋白が尿中にみられることがあります(尿細管性蛋白)。

 特にアルブミンよりも分子量の小さな蛋白室、β2ミクログロブリン(分子量2万)は、糸球体を濾過し、尿細管で再吸収を受けます。尿細管障害では、このβ2ミクログロブリンが大量に尿中に排泄され、尿細管障害のよい指標となります。

 小量の蛋白尿は、尿検査でしか検出できず、自覚症状もありません。大量の蛋白が尿に出てきますと、尿が泡立つことに気づかれ、さらに強い程度の蛋白尿で、血液の蛋白が低下するようになると、むくみを自覚します(ネフローゼ症候群)。

 それでは、蛋白尿と糸球体の病気とはどのような関係があるのでしょうか。よく混同されるのが、蛋白尿と腎機能の低下です。蛋白尿=腎機能の低下=人工透析を受けねばならないと考えられる方がいます。

 腎機能が廃絶し、人工透析を受けなければならないような重い糸球体の病気をイメージされるのでしょうが、大量の蛋白尿を排泄し、ネフローゼ症候群を呈する糸球体の病気であっても、腎機能の予後が良好な病気があります(微少変化型ネフローゼ症候群や膜性腎症)。ところが、慢性糸球体腎炎と一般的にまとめて呼ばれている糸球休の病気では、ネフローゼ症候群や、ネフローゼ症候群までいかなくても蛋白尿が多い人のほうが、腎機能が低下していく可能性が高いとされています。このように疾患の重症度と蛋白尿の程度には強い相関関係があります。

 それではどの程度の蛋白尿があれば充分な注意が必要になるのでしょうか? 1日の尿蛋白が1gを超え、数gに達する大は要注意です。一般的に健診などで行なわれている尿検査では、試験紙を用いた尿蛋白の検出が行なわれています。

 偽陽性、陽性、中等度陽性、強陽性。―日の尿量を1000~1500㎡とすると、(2+)以上はかなり注意をする必要があります。

 但し検査時に尿を採取する部分尿(スポット尿)の場合、尿の濃さに留意しなければいけません。腎臓は体液の濃さを一定に保つために、尿を濃くしたり(濃縮尿)、薄めたりして(希釈尿)います。すなわち、水分をたくさん摂れば、尿は薄くなり、真夏の炎天下で、水分を摂らないような状態では尿量が減り非常に濃くなります。

 従って、正常人でも一日に100呵程度の蛋白は尿中に排出される訳ですから、非常に濃縮された尿では、(十)程度の陽性を示すことは珍しくありません。できたら蓄尿して一日の蛋白尿を測定することがよいでしょう。また尿蛋白を測定するとき、必ず同じ尿で比重をみておくことも、大まかな目安となります。

 最近では、同じ尿で蛋白とクレアチニンを測定することが普及しています。腎機能が正常~中等度の低下では、尿中クレアチュン排池量はその人にとって毎日一定です。

 クレアチニンは筋肉の代謝で産生される物質であり、一日に産生されるクレアチニン量は、個々の筋肉量に比例します。したがって同一人では毎日ほぼ一定量のクレアチニンが尿中に排泄されるわけです。ですから、スポット尿のクレアチニン濃度が分かれば、その尿の濃さをより正確に判断できます。

 蛋白濃度/クレアチニン濃度比を、同じ人で、経時的にみれば、尿蛋白の変動がよくわかります。ただし、細かい絶対値を他の人と比較することは、個人個人でクレアチニン排泄量に差がありますので、あまり大きな意味はありません。

 一日に正常人で排泄される100mg程度の尿蛋白は、生理的に多少変動します。

 高熱を出したときや、激しい運動をしたときには増加しますし、また安静臥床時には尿蛋白陰性ですが、立位で尿蛋白がみられる起立性蛋白尿などがあります。

 このような生理的蛋白尿と病的な蛋白尿、また腎臓病(慢性腎炎)があったとして、将来腎機能が保たれるものと腎不全に進行していく可能性があるものとを鑑別しなければなりません。日常生活を余計な心配をしないで、快適に過ごしていくため、また、大丈夫と思っていたのに、ある日突然血液透析を受けなければいけないなどと告げられて後悔しないように、正確に判断されなければなりません。

 一言でいえば、いつどのような状況で検査しても一定程度(2十)以上の蛋白尿が検出されるものは警戒が必要で、出たり消えたりするようなもの、また一日1g未満の蛋白尿はそれほど心配はありません。

 慢性糸球休腎炎と呼ばれる疾患の中には、組織学的に、さまざまな疾患が含まれています。日本人に多いIgA腎症、小児科領域に頻度が高い膜性増殖性腎炎、またメサンジウム増殖性腎炎や巣状硬化症の一部などが含まれます。これらの疾患では、やはり蛋白尿の程度が強い患者さんほど予後が懸念されます。

 したがって、ある程度以上(筆者らは1日lg以上)の蛋白尿を呈する患者さんでは腎生検を行なって、組織学的な診断を確立し、同じ疾患でも、その障害の程度を評価し予後を推測する必要があります。