多尿:水制限試験、バソプレシン試験


 正常な大人の1日の尿量は、通常800~1600ml程度です。普通に食事を摂って、普通の生活をしていると、1日に尿中に排泄しなければならない不用な物質(塩類、老廃物など)が一定の量生じます。

 この物質を例えば食塩とすれば、食塩水の形で作られる尿は、そのときの体の水分量に応じて、薄い食塩水から濃い食塩水までさまざまな濃度の食塩水になるように腎旅が調節します。

 ですから、水分をたくさん摂れば、うすい尿(比重低下)が大量に出ますし、炎天下で激しい運動をしたり、下痢や嘔吐で水分が失われたりすると、濃い尿(比重上昇)が少量出ます。

 このように腎臓は体液量の調節をする重要な役目をしています。この調節をしているのは主に腎臓の集合管と、脳下垂体から分泌されて集合竹に作用する抗利尿ホルモン(ADH)です。体液が濃くなると、ADHが分泌されて、いったん糸球体で濾過された原尿中の水が体に戻され、体液を薄めます。このとき、尿は水分が減るので濃くなります。逆に、体液が薄くなると、ADH分泌が抑えられて、集合管での水の再吸収が低下し、体液は濃くなり、また尿は薄くなります。

 簡単には以上のようなしくみで、尿の濃さと尿量が決定します。このような調節機構に異常が生じて、体液量と無関係に尿が生成される状態が多尿で、1日2500ml以上からこの数倍に達する尿が、強制的に出てしまう場合があります。

 意識がはっきりしている人であれば、当然渇きを覚えますので、多飲となり、どうにか体液の濃度を保つことができます。

 ここで、数リットルに及ぶ尿が生成されますので、尿の回数も増えますが、―回の尿量は充分量あり、膀胱炎などで自覚する頻尿とは全く異なります。

 多尿の原因は、①病的な多飲、②ADH分泌障害(尿崩症)③腎尿細管のADHに対する反応性の低下(腎性尿崩症)④浸透圧利尿(尿に溶けている溶質が大量となり、そのため水が失われる。例、糖尿病)があります。①病的多飲(心因性多飲症) 強迫的に飲水する例や、また本人が自覚せず小児期からの習慣で、大量に飲水する人がいます。②尿崩症 ADH分泌障害が、何ら原因なく(特発性)、または遺伝性、さらに脳下垂体の器質的な疾患に伴って(続発性・・腫瘍や脳血管障害、脳炎など)、発症する例があります。③腎性尿崩症 種々の腎臓の障害(腎盂腎炎、痛風腎、海綿腎などで、これらは腎尿細管が主に障害を受ける) によって、ADHに対する反応性が低下(ADHがきかなとし、多尿となります。
④浸透圧利尿 多量の溶質(尿糖、NaCl)が尿中に漏れるため、これを溶かしている水が尿細管で再吸収されず、多尿となります。④については尿
中の糖や、血糖また、急性腎不全の多尿期であることなど、診断は難しくはありません。しかし、前3者は、多尿であることからだけでは、容易に
は区別できませんが、次のような検査をすれば、診断可能です。

 水制限試験・・飲水を制限することで、どの程度まで尿が濃縮されるかみるもので、①では濃縮されますが、②、③では濃縮されません。

 バソプレシン試験:合成されたADH(バソプレシンあるいはDDAVP)を患者さんに投与するもので、本質的にこれの欠乏である②では尿の濃縮がみられますが、③ではみられません。ここで真の尿崩症(②)と診断されたならば、特発性か、腫瘍などに続発するものであるかを見極めなければならず、さらに頭蓋レントゲン写真、脳CT検査などが行われます。