外科疾患(虫垂炎、メッケル憩室、鼠径ヘルニア嵌頓)

虫垂炎

 細菌・ウイルス感染による虫垂のリンパ濾胞の腫大や、糞石などによる虫垂の閉塞によって炎症が惹起される。初期のカタル性病変から蜂窩織炎、さらには腹膜炎へと波及・進行する。小児では訴えが不確実であり、また急速に進行するため、汎発性腹膜炎となりやすい。初期には臍周囲の痛み、嘔吐、下痢などとして訴えられ、次第に右下腹部(マックバーニー点)の痛みへと移っていく。反跳痛や筋性防御も認められる。腹膜炎を合併すると、組織の炎症による滲出液や浮腫による循環血漿量の減少と、特にグラム陰性桿菌によるエンドトキシンなどにより、ショックやDIC(播種性血管内凝固)・多臓器不全などが引き起こされる。

メッケル憩室

 胎生期の卵黄嚢管の遺残であり、剖検例では1~2。5%に認められ、決してまれな疾患ではない。合併症が問題となり、胃粘膜が迷人しているために消化管出血をきたしたり、腸重責や腸閉塞の原因ともなる。憩室炎は虫垂炎との鑑別が困難である。潰瘍による穿孔例もある。出血例以外は急性腹症として来院することが多い。

鼠径ヘルニア嵌頓

 小児では外鼠径ヘルニアがほとんどである。胎生期に腹膜の下端に生じた腹膜鞘状突起に小腸・結腸が脱出する。新生児の70~80%では出生時に腹膜鞘状突起が開存しているといわれている。ヘルニア内容が腹腔内に戻らなくなった状態が嵌頓ヘルニアであり、壊死へと進行した状態を絞扼性ヘルニアと呼ぶ。男児が女児より、右側が左側より多い。腹圧上昇時の鼠径部腫瘤が症状であるが、嵌頓すると急激な不機嫌、嘔吐、腹痛などを訴える。

 


診断と治療

虫垂炎

 臨床症状だけでは診断は困難であり、白血球数・CRPなどの急性炎症反応の検索を行う。白血球数は増加することが多いが、重篤な症状にもかかわらず低下している症例では、すでに穿孔を起こしている可能性かおり、注意を要する。画像診断では、超音波検査が虫垂の腫大や膿瘍などを描出でき、最近汎用されているCTも有用である。腹膜炎や穿孔を起こす前に虫垂切除術を施行することが肝要であるが、小児では発見が遅れる症例が多い。抗生剤投与で保存的に経過観察する場合で仏入院の上で観察すべきである。


メッケル憩室

 急性腹症として発症すれば、手術時に診断がつけられることになる。出血をきたす例では、 99mTcを用いた消化管シンチグラムが、胃粘膜が迷入したメッケル憩室の診断に有用である。手術は憩室の切除が原則である。


鼠径ヘルニア嵌頓

 非巌頓時の診断は、触診によるsilk sign (恥骨上でヘルニア嚢が2枚の絹布をこするような感触で触知できる)力1有名であるが、乳幼児の場合は触知困難である。診断のために、立位にさせたり、下腹部を圧迫してヘルニアを誘発させることもある。徒手整復はほとんどの場合で可能である。できる限り児をリラックスさせ、鼠径管からヘルニアが脱出している部位をつまむようにして固定し、腸管内容を徐々に還納していく。「ギュルギュルッ」という感触とともに還納される。鎮静・麻酔下で行えば成功率は上がるが、一般には無麻酔で整復可能である。自然治癒する例もあるが、多くはない。再発を繰り返す例では手術の適応となる。根治手術は非巌頓時に行うのが原則で、新生児期を除いて、早期に行われるようになってきている。巌頓ヘルニアで緊急手術になる例は、1歳未満の児のことが多い。

 

ナーシングポイント

○小児の急性腹症の児は、時に小児科と外科との間で宙ぶらりんの状態に置かれることがある。虫垂炎で経過観察中に穿孔・腹膜炎を起こすような症例もある。実際にはかなり困難なことではあるが、両科の間で密接にコンタクトをとって、意思決定を円滑に行えるようにすることが肝要である。従って、このような患児の看護をする時は、一般状態および症状の変化を慎重に観察して医師に積極的に報告する。小児科医・外科医・看護婦のチーム医療の質が問われる事態である。

○痛みに対して安易に鎮痛剤を使用すると、(腹膜炎などに)重症化していることに気づくのが遅れてしまう危険性かおる。可能な限り鎮痛剤の使用は避けたい。医師とともに、このことを患児・保護者に理解してもらう。

虫垂炎では病初期に必ずしも右下腹部痛を訴えないこと、重症化しか例では白血球数が低下することなどが要注意事項である。またまれではあるが、新生児の虫垂炎は死亡率が高い。

○保存的治療としてのヘルニア帯の使用については、現在はほとんど用いられていない。児に対するストレスも大きく、安全に早期手術が行えるようになっているので、手術療法が選択される。