肥満研究の落とし穴

 

現代人の日常生活そのものが肥満を起こす特別な環境

ロンドン大衛生熱帯医学研究所のアンドリュー・プレンティスは、西アフりカのガンビアではたらいていたときに、それまでの肥満研究の落とし穴を発見した。

 ガンビアは、湿地が多く、マラリアの蔓延する地域で、人々は栄養不足に苦しんでいる。農民は、夏の旱魃の間に体脂肪をほば半減させ、生殖能力石失う。しかし、彼らは生き延びる。ガンビア人は代謝率が低いから、食料が乏しくても生き延びるのだと、長年、プレンティスを含めた多くの研究者は推論し合点してきた。

 この推論を確認しようと、プレンティスは、ガンビア人に食生活について質問し、彼らの生活ぶりを観察した。

 調査期間中、彼らは何も食べないか、食べてもごくわずかたった。こうして代謝率が低いために、必要とする食料が他の人だちより少なくてすむのだろうと納得していた。

 しかし、これが大闊違いだった。彼がついに研究資金を得て、ガンビア人が摂取している食物の量とエネルギーを測定したところ、彼らは報告されている量の2イ音も摂取していることが明らかとなった。

 ガンビア人は、とりわけ、母親は、隠れてこっそり食べる習慣があったのである。日本を含めた欧米社会の毋親たちとまったく同じである。国か国でもダイエットに失敗する人は、「私、食べなくても太るんです」とか、「見ただけで太るんです」などと言い訳をするが、あれと同じである。

 長年、肥満の人は代謝率が低いと信じられてきたが、これもまた大きな誤りだったことが、ウィスコンシン大の栄養科学者デイル・ショラーの厳密な

 

 彼は、人の代謝の速度を調べた。彼は、被験者に酸素と水素を2重に標識した放射の水を飲んでもらい、水素と酸素の代謝を追いかけた。

 標識された酸素の一部は、二酸化炭素になり、体外に排出される。標識された残りの酸素は、標識された水素と結合し、水となって体内に残る。一足の時間内にどれだけの酸素が二酸化炭素になったかを測定すれば、代謝率がわかる。

 この研究から、ショラーは、肥満の大は標準体重の大よりも、代謝の速度が遅いのではなく、むしろ速いという結論を引き出した。

 かつて科学者は、代謝が遅いことが肥満のおもな原因であると考えてきたが、これは誤りであったのだ。