看護教育課程の評価


 教育課程の評価は、それを改善するうえでの意思決定に役だつ情報を収集す、るために行うものであるが、「教育課程」をどのように理解するかによって、その対象となる範囲は多様に考えられる。たとえば、教育プログラムそのものだけを評価の対象とする考え方に対して、教育プログラムに関連する施設・設備および教職員の組織などの外部要因に関する内容を含めて評価の対象とする考え方がある。それは杣木的には、教育課程に対する概念が広くなってきたことによるが、その雌史が浅く、必ずしもすべての教育者が同様な見解をもっているとはかぎらないこと、肖面の話題との関係で狭義に考えたり、広義に考えたりすることによる而もある。

 ここでは、これまで述べてきた教育目標に関する考え方を考慮して、効果的に教育を進めていくために必要な範囲として、教育課程の編成と実際に直接関連する内容に限る。

1。評価の段階と評価内容

 教育課程の評価は、教育者が教育課程の改善には限界はないという認識をもち、つねにその改善を目的として、教授・学習の過程で意図的に評価することによってはじめて成り立つ。これまで看護教育における教育課程は、国の定めた指定基準を前提に考えられてきたため、教育課程の評価についてはあまり語られていない。しかし、教育課程はそれぞれの学校が独自の教育理念に基づいてつくられた教育計画でなければならないので、それには常に教授・学習の過程を評価しながら、それぞれの機関の目的・目標と学習者のニーズを満たす教育ができるように緻密な教育の計画を立てていく必要がある。

 したがって、教育課程の評価では、その編成過程と実践過程が主な問題になるが、さらに教育の成果と卒業後の活動状況との関連匠を加えて評価しなければならない。その意味で、教育課程の評価は、次のような段階において考えることになる。

1)教育課程作成段階の評価

 教育課程の作成は教育年限を考慮した目的・目標の設定から始まる。その目的・目標の設定にあたっては、機関の教育に対する基本的な考え方を明確にしておかなければならない。すなわち、先に示した「教育に対するニードと制約」の各項を学校の特色を考慮して検討し、教育の理念とともに目標および教育方針を明確にする必要がある。したがって、その具体的な評価の視点としては、次のような内容があげられる。

(1)教育が目ざす人間像が明らかになっているか。

(2)教育内容に関する目標が認知領域・情意領域・精神運動領域を含めて設定されているか。

(3)校風ないし教育観が反映された教育目標となっているか。

(4)教育目標は時代の要請に対応できるものとなっているか。

(5)遵守しなければならない基準に見合う内容となっているか。

(6)科目設定および教育内容を具体化するための明確な考え方があるか。たとえば、理論と実習との関係、講義ないし演習のまとまりのつくり方、実習内容の学習段階のつくり方などについて。

(7)教育の進め方に関する考え方があるか。たとえば、基礎科目と専門科目との関係、専門科目のなかの各科目間の関係について。

(8)教師ないし指導者の起用のしかたに関する考え方があるか。

(9)目ざす人間像と設定した教育目標を考慮して入学者の選考にあたっているか。

2)教育計画に基づいて教育を実施する段階の評価

 教授・学習の過程では、必要な教育の段階に合わせて具体的に記述された教育目標が必要となる。したがって、機関の教育目標を受けて教育目標設定時の原則などを参考にして、評価できるような目標を設定しているかどうかが問題となる(第2~5章までを参照)。さらに、教授・学習の過程の評価では目標の達成状況を客観的にみなければならないので、教育方法が密接に関連することになる。その意味で、学習者の評価に合わせて教育方法および教育者の評価も対象にしなければならない。具体的な評価の視点としては、次のような内容が考えられる。

(1)教育目標と行誕実践との関連性があるか。

(2)看護実践に関する学習内容には、時代の要請に応える内容の基盤となるものが粘選されているか。

(3)教育目標が単に知識の暗記、技術の手順の学習にとどまるものになっていないか。

(4)学習状況と科川ないし単元の配列との関係はどうか。

(5)学習状況と教介力法との関係はどうか。

(6)授業計1111jのなかに評価計画が含まれているか。

(7)教育内容と教介方法との関係はどうか。

(8)新しい教介理論や教育方法に関心がもたれているか。

(9)学習量と時間数との関係はどうか。

学習者の変容状況はどうか。

  (学習の過程と学桝終了時を含めて問題にする。)学習の迦程における評価結果の生かし方はどうか。

  (補充学科と深化学習のさせ方を問題にする。)

(12)教授・学習環境はどうか。

  (教育者、実習場を介めた教育施設設備、教材などの評価を問題にする。)

 看護教育は、卒業後に看護職者として、その役割を果たせることを目的として行われているので、当然教育の評価を考えるには、卒業生がどのような活動をしているかを問題にしなければならない。具体的な実態をとらえたい視点としては、次のようなことが考えられる。

(1)臨床で、どのくらい看護実践ができるか。

(2)学校で学んだものを、どのように生かしているか。

(3)学校で学習したもの以外で、どのような内容を必要としているか。

(4)これからの学習課題としてあげるものが考えられるか。

 評価の時期としては、卒業時または卒業直後、卒業後3力ヽ月、6か月、1年、3年、5年などの段階を設定することが考えられる。卒業後の成長状況との関連で教育課程の評価を考えていくには、その過程における個人の努力や職場の教育プログラムが介在するので、その点をコントロールしなければ客観的データを得るにはむずかしい。しかし、経年的に結果をだして一般的な傾向を把握したり、他の教育課程で学習したグループとの比較検討をしたりして、まず教育課程の評価に役だつ資料づくりと評価方法の開発をしていく必要があろう。いずれにして仏卒業後の活動状況を評価するには、卒業時点のデータを中心にして考えることになるので、このデータは必ず確保するようにする。

2.評価の規、準.

 評価を行うには、評価の意図、明確な規準およびその方法がなければならない。したがって、教育課程の編成時点から、教育理念に従った、①評価の視点、②収集すべきデータ、③情報の収集と分析の方法、④評価の各側面に関する各職員が負うべき責任に関する考え方を明確にしておく必要がある。その規準づくりのうえでは、次の3点を考慮することになる。

(1)適切性:教育目標・教育活動・結果に対して考える。

(2)関連性:機関の教育目標と設定した科目ないし単元間の関連性、教育内容と教育方法との関連、学習者の学習状況と学習の進め方との関連などを考える。

(3)責任性:教育目標の設定、教育活動、結果すべてに責任の所在を明らかにする。

 看護教育における教育課程の評価については、その規準や方法がいまだ確立されていない。したがって、当面は前述した教育課程作成段階の評価、教育過程段階の評価および卒業生の活動状況に関する評価の視点を軸にして、部分的にその具体化を仇討しながら必要な規準や評価方法を作成することになろう。