筋無力症について:ネオスティグミンが有効

筋無力症という病気があります。筋力が低下する病気ですが、特に1回だけの運動ならわりあいによくできるのに反復運動が苦手だという特徴があります。

この「1回だけの運動ならわりあいによくできるが繰り返しが苦手」という特徴は筋弛緩薬を少量注射したときにも見られる特徴です。

神経から筋肉に刺激を伝える際は、電気ではなくアセチルコリンという物質を伝達物質として使用しています。つまり脳から「筋肉を動かせ」という命令が来ると、それが神経を伝わって筋肉の近くにある神経の末端に達し、ここでアセチルコリンを出します。このアセチルコリンが筋肉に届くと筋肉が収縮します。筋弛緩薬は筋肉側でアセチルコリンを受け取る部分の性質を変えてしまって、アセチルコリンがたくさん来ないと反応できなくしてしまうと考えられています。刺激が繰り返されるとアセチルコリンの放出量が減少するので、刺激の伝達がうまくいかなくなるのです。

筋無力症は、クラーレの症状が似ているだけでなく、クラーレの作用を打ち消す物質を与えると症状もよくなるので、その点でも類似しています。この類推から、体内にクラーレ様の物質ができて筋無力症が起こるのではないか、と考えられた時代もあったのですが、現在ではこれは誤りと判明しています。むしろ体の免疫のメカニズムの異常によって筋肉の性質が変化し、受容体の働きが悪くなって発生する病気のようです。この疾患にはネオスティグミンは有効ですが、理屈から考えてスガマデクスは無効なはずです。

筋肉の収縮のメカニズムはまだ完全には判明していません。筋弛緩薬の作用も実は不明な部分がずいぶん残っています。