ACE阻害薬で誤嚥性肺炎を予防する


現在使われている代表的な降圧薬は、ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、ACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬の5つのタイプです。

ARBはレニン-アンギオテンシン系を抑制して、血圧を下げる作用をもつARBです。これは血圧をゆっくりと無理なく低下させ、副作用が少ない医薬品です。ACE阻害薬も同じくレニン-アンギオテンシン系を抑制する薬で、冠動脈疾患のある患者によく効く、とてもいい薬ですが、咳が出るという副作用があります。ACE阻害薬が咳を出す原因は、血液中のサブスタンスpという物質を増やす作用と関係していることが知られています。アメリカでは非常によく使われているのですが、日本人に使うには注意が必要になります。なぜならアジア系の人には特に副作用が多く、30%程度に咳が出るともいわれているからです。外来で「咳が止まらなんですよね」と訴える患者が多いのが、このACE阻害薬です。ACE阻害薬をやめるとぴたりと咳がやむということを経験すると、これは値段も安いし、いい薬ですが、なかなか使いにくいなぁという印象をもってしまうわけです。

しかしこの、咳を起こすという副作用にも使い道があるとされています。高齢になると誤嚥性肺炎が増えるのですが、その治療にACE阻害薬を使うことがあるのです。異物が気道に入った時に咳が出ればそれが肺に入らないで済むけれども、咳こめないために誤嚥になるともいわれています。ですから、ACE阻害薬なら咳を出し、肺炎が予防できるというわけです。

この研究は、平均年齢75.3歳の189人の男性と平均年齢76.5歳の女性387人、計576人を対象に日本で実施されました。ACE阻害薬を飲むグループ(269人)と、カルシウム拮抗薬を飲むグループ(247人)、そして高血圧ではない60人を追跡したところ、ACE阻害薬を飲んでいるグループでは9人に誤嚥性肺炎が生じ、カルシウム拮抗薬の場合は22人、高血圧でない場合は5人に誤嚥性肺炎が生じていました。このことから統計的にはっきりとした差をもって、ACE阻害薬には肺炎予防効果があることが示されたのです。これは素晴らしい発見です。