de novo精神病について


難治性のてんかんに対する外科手術後、術前には認められなかった幻覚や妄想などの産出的な精神病状態を呈することがあります。これをde novo精神病といい、術後注意すべき精神症状です。ただし研究の目的によっては反社会的な行動、突発的な興奮や暴力、重篤なうつ状態躁状態などを含めてde novo精神病として扱われていることもあります。

この術後の精神症状に対しては器質的な問題だけでなく、心理的な反応として理解する必要もあります。すなわち、今までの発作を抱えているため周囲から庇護されてきた生活から、発作がなくなることで周囲からも独り立ちを求められるための心理的な反応としてとらえる考えです。Trimbleは1991年までに報告された症例を検討し、de novo精神病の発病頻度が施設により差があり、また片側前頭葉切除術を受けた大多数の症例では発病しないため、外科手術との関連は明らかではないと述べています。しかし、心因のみでは説明がつかず、器質因を想定しなければならない精神症状も少なくなく、さらに検討が必要であると思われます。

日本の医学チームは、蓄積された前頭葉切除術後に発症したde novo精神病の報告の中で急性錯乱状態、持続性妄想状態、統合失調症様状態のいずれかのもののみに限定した条件に合う報告をまとめ検討しています。それによるとde novo精神病の発病頻度は4%弱と推定され、さらに発病危険因子として次の5つの因子をあげています。

① 精神病の既往歴および家族歴
② てんかん発症および手術時年齢が思春期
③ 胎生期起源の側頭葉内側部の異組織病変
④ 両側性あるいは広範性側頭葉病変
⑤ 右側頭葉切除

精神病症状の発現時期に関しては早期に発症した例から数年経て発症した例もあるなど様々であり、また術後の発作の抑制という点でも完全に抑制された例、改善した例、不変であった例など様々です。このことはde novo精神病の発現機序は単一ではなく、いくつか複数の異なる発現機序がある可能性も考えられます。

術後早期に発作が完全に消失した後に精神病が出現する例はTellebachのいう交代性精神病と考えられ、強制正常化の機序が想定されます。精神病性挿間病が出現する時期にそれまで認めたてんかん性の突然異常波が消失し基礎律動も正常化するという現象があります。これを強制正常化といいますが、これは脳部位の病的活動に対し近接する健常な脳部位がそれを抑制して正常化しようとし過剰な反応を起こすことと考えられています。この場合、てんかん焦点が切除され、発作が消失しても、周辺残存組織からのてんかん発射が持続している可能性があり、これが精神病の出現に関連しているのではないかとも考えられます。

一方、発作の完全消失には至らず術後半年以上と比較的、時間が経過してから精神病が出現する例もあります。動物実験では持続的な局所のてんかん性放電により、異常な神経線維の発芽とシナプスの増大を引き起こすことが報告されています。このことにより、切除された側頭葉から投射を受けていた脳部位に異常な神経再支配が生じており、その結果何らかの神経伝達物質の変化が起こって精神病が発症したとも考えられます。いずれも仮設の段階でさらなる検討が必要です。

なお、転換手術のうちの7割を占める側頭葉切除術後の精神病症状についての報告は多く認められています。