ガンを防ぐための12カ条

ガン研究者がすすめる12ヵ条のうち8ヵ条が食生活に関するものです。

①バランスのとれた栄養をとる
②毎日、変化のある食生活を(同じ食品を繰り返し食べない)
③食べすぎを避け、脂肪は控えめに
④お酒はほどほどに
⑤タバコをやめる
⑥食べ物から適量のビタミンと繊維質のものを多くとる
⑦塩辛いものは少なめに、熱いものは冷ましてから
⑧焦げた部分は避ける
⑨カビの生えたものに注意
⑩日光に当たりすぎない
⑪適度にスポーツをする
⑫体を清潔に

 

 国立がんセンターの提唱している「ガンを防ぐための12カ条」には、すでにお話しした内容と重なってうなずけるところが多いようです。

 タバコ(⑤)や焼け焦げ(⑧)は発ガン物質を含んでいましたし、脂肪(③)は腸内の悪玉菌が発ガン物質をつくる材料になります。カビ(⑨)については述べていませんでしたが、ここで問題にされているのは主に、輸入物のナッツ類に生えるカビです。1960年にクリスマスを控えたイギリスで、10万羽もの七面鳥が死ぬ怪事件が起こりました。原因を調査したところ、エサのピーナッツにカビが生え、このカビがアフラトキシンという猛毒をつくることがわかったのです。

 アフラトキシン発ガン性は1tのエサに1mmまじっただけで七面鳥に肝ガンをつくるほど強力ですが、日本産のピーナッツにはこの種のカビは生えません。もちやパンなどのカビにも発ガン性がありますが、その強さはアフラトキシンの100分の1以下とされ、カビた部分をとって食べる分には心配ないようです。

 体を清潔に(⑩)というのは、1775年に医学史上初めて発ガン物質を指摘した論文にもとづいています。当時、イギリスで煙突掃除夫に陰嚢ガンが多くみられ、このことに気づいたポット博士は煙突のすすが陰嚢のひだにしみ込み、ガンができるのではないかと報告したのです。

 体を不潔にする生活習慣は子宮頸ガンや陰茎ガンのリスクを高めることも知られていますが、日本人のように週に少なくとも2~3回は入浴する国民はあまり心配はいりません。日光(⑩)の紫外線にしても、夏の海水浴などでひどく日焼けをしたからといってすぐに皮膚ガンができるというわけではありません。

 多くのガンは非常に長い期間、発ガン物質が繰り返し繰り返し細胞に作用し続けた結果できるものです。タバコを例にとれば、吸い始めてからの喫煙本数で20万本以上、喫煙係数600以上になると、肺ガンなどのリスクが高まるとされます。喫煙係数とは1日の喫煙本数に喫煙年数をかけた数字で、喫煙係数が600になるには、1日測一本吸う人で30年、1日10本吸う人なら60年かかります。

 このように長い年数がかかるからこそ、毎日の「習慣」がガンになるかならないかを大きく左右するのです。

 同じことが食事にもいえます。肉や魚の焼け焦げをたまに食べてしまったからといってすぐガンができるというものではありませんし、脂肪のとりすぎにしても毎日だからこそ問題になるのです。

 いま、あなたの好物が仮にAとBであるとします。AやBにはあなたのまだ知らない発ガッ物質が含まれている可能性もないとはいえません。また、ニトロソアミンのように、それ自体は発ガン性のないAとBの食べ合わせから胃などで未知の発ガン物質が生成しているかもしれません。いくら好物でも、AやBばかり毎日食べていると、同じ発ガン物質の刺激を繰り返し受け続けることになりかねないのです。そこで、食べ物に含まれているかもしれない発ガン物質のリスクを避けるために、なるべく同じものを繰り返して食べない変化のある食生活(②)がすすめられています。

 私たち日本人がこのことを実感しやすい身近な例は、食塩の摂取(⑦)と胃ガンの関係でしょう。

 昭和30年代後半に始まる冷蔵庫の普及や道路網の整備により、日本人の食卓はがらりと変わりました。塩辛、塩鮭などの塩蔵品にかわって新鮮な魚や肉が、漬け物にかわって生野菜が食卓に並び、1日あたりの食塩の摂取量が減りました。食習慣のこのような変化に伴い、日本人に多かった胃ガンが著しく減少してきたのです。胃液は分厚いステーキのタンパク質も消化する強い酸ですが、タンパク質でできている胃袋そのものは胃液によって消化されません。これは胃壁が粘液によって守られているためなのですが、高濃度の食塩が作用すると、粘液がとけて胃潰瘍ができやすくなります。その潰瘍の跡が再生してくる際にニトロソアミンなどの発ガン物質があると、ガン化か起こりやすいのです。

 国立衛生試験所が行った実験によれば、ラットにニトロソアミンとともに、10%という高濃度の食塩を含むエサを与え続けると約80%に胃ガンができます。食塩の濃度を5%、2・5%と下げても、半数に胃ガンができるということです。こうした事実から、食塩を発ガンプロモーターの一つにあげる学者もいます。 

 カレーライスの塩分が約2・5%、うな重、カツ丼、チャーハンが5%前後、ラーメンや鍋焼きうどんは7%以上ですから、2・5%という塩分濃度は少し油断すると、私たちの食卓でも十分ありうる数字です。特に会社勤めなどで外食をされるかたは毎日のことなので、注意が必要です。

 同様に、ラーメンやお茶漬けなどをヤケドをしそうなほど熱々で食べるのを好んだり(⑦)、ウイスキーやブランデーなどの強い酒をストレートであおる習慣(④)は、食道や胃の粘膜を傷つけ、発ガン物質をしみ込みやすくさせます。

 いつでもおなかがいっぱいになるまで食べてしまう(③)習慣も胃の負担となるので、胃ガンのリスターファクターの一つとされ、「腹八分目」がすすめられています。