長寿村のお年寄りの腸内にはビフィズス菌がいっぱい

 光岡知足東京大学名誉教授と理化学研究所のグループは、この棡原村の高齢者を一軒一軒訪ねて17名の検使のサンプルを集め、腸内菌叢を調べました。お年寄りたちは92歳のおばあちゃんを筆頭に平均年齢82歳で、どの家でも里いも七こんにゃくのみそ煮をお茶受けに、遠来の客をあたたかくもてなしてくれたということです。

 便に含まれるビフィズス菌ウェルシュ菌などの菌数を分析した結果、東京都内に住む高齢者にくらべ、棡原村の高齢者の腸内にはビフィズス菌が多く、ウェルシュ菌が少ないことがわかりました。

 ウェルシュ菌はクロストリジウムの一種で、若い人の腸には少なく、老化とともに便から検出されるようになる腐敗菌の代表格です。そのウェルシュ菌が東京都の高齢者の約81%から検出されたのに対して棡原村では約47%と半数以下にとどまり、棡原村のお年寄りが若々しい腸をしていることが証明されたのです。

 理化学研究所のグループはさらに、沖縄県の高齢者の腸内菌叢を調べていますが、棡原村の高齢者にもましてビフィズス菌が多く、ウェルシュ菌が非常に少ないことがわかりました。

 豚肉を毎日のように食べる食生活を続けながら、そのタンパク質をエサとしてふえるはずの腐敗菌がこのように低く保たれているのは、驚くべきことです。沖縄のお年寄りは緑黄色野菜や豆類を多くとっているため、これらに豊富に含まれる食物繊維ビフィズス菌などの乳酸菌をふやすように働き、腸内環境を酸性に保ち、腐敗菌の繁殖を抑えているものと考えられます。

 沖縄県や棡原村のお年寄りの腸内ではこのように腐敗菌の勢力が抑えられた結果、これらの悪玉菌による発ガン物質の生成も低く抑えられているものと推測されます。同時に、豊富にとる食物繊維が小腸での乳酸菌の繁殖を促し、これが免疫系を刺激して、ガンになりにくい体をつくっていると考えられるのです。

 腸内に腐敗菌がはびこることに警告を発したメチニコフ博士のヨーグルト長寿説がいかに先見性の高いものであったかがわかるでしょう。沖縄県や棡原村でのこれらの調査は、博士の指摘したとおり、腸内の腐敗菌を抑えることが老化を防ぎ、健康長寿 の鍵となることを示しています。「人は腸から老いる」のです。

 しかし、今日では博士の説に多少の修正を加えてもいいようにも思われます。

 腸内の乳酸菌をぶやして腐敗菌を抑えるには、乳酸菌を含むヨーグルトなどを食生活にとり入れることが手近な方法ですが、食物繊維を含む緑黄色野菜、豆類、いも類などを食べることでもおそらく同様の効果が期待できることを沖縄県や棡原村の例が示しているからです。

 食物繊維の摂取量の多いフィンランドのクオピオ地方には大腸ガンが少なく、またヨーグルトなどの乳製品と食物繊維をいずれも多く摂取している場合に乳ガンのリスクが低くなります。