バイオ医薬という破壊的イノベーションの特徴

 破壊的イノベーションは、その性質によって「新市場型破壊」と「ローエンド型破壊」の2種類に分けられる。この分類に従えば、バイオ医薬という破壊的イノベーションは、まさに新市場型破壊に該当する。まずは、新市場型破壊の2つの特徴を見てみよう。

 ①本来のバリュー・ネットワークとは異なる次元に、新しいバリュー・ネットワークを生み出す

 ②当初は、その独自のバリュー・ネットワークのなかで無消費(消費のない状況)と対抗するが、性能が向上するにつれて、主流となる顧客の最も要求水準が低い層から順に、次々と新しいバリュー・ネットワークのなかに引きずり込む

 では、バイオ医薬という破壊的イノベーションの特徴と、上述した新市場型破壊の特徴を照合してみよう。まずは、①について見てみよう。

 バイオ医薬は、これまでの生活習慣病領域の患者には評価できない、異なる性能尺度で測られるべきイノベーションだといえるだろう。なぜか。それは、パソコンや電気機器などといった一般的な消費財と異なり、医薬品は、その病気にかからない限り需要が生まれないからである。バイオ医薬のほとんどは、がんなどのアンメット・メディカル・ニーズ領域の疾患の薬剤である。そのため、既存の生活習慣病領域の患者にとっては、アンメットーメディカルーニーズ領域の疾患にかからない限り、バイオ医薬が持つ破壊的イノベーションの価値を評価できない。したがって、これまでの市場とは異なる次元に、新しい市場を生み出しているといえる。

 次に、上述した②の特徴だが、これはバイオ医薬にはあてはまらない。既存の生活習慣病領域の患者にとっては、現在の低分子薬で十分満足できているからである。そのため、企業側は、生活習慣病領域の薬剤をバイオ医薬で開発しようという動機を持たない。

 現在、バイオ医薬で開発されている薬剤の多くはアンメット・メディカル・ニーズ領域のものだが、どんなにバイオ医薬の性能が向上しても、その領域の疾患にかからない限り、これまでの生活習慣病の患者(主要顧客)がアンメット・メディカル・ニーズ領域(新市場)に引きずり込まれていくことはない。両市場の患者は基本的に重複しないといってもいいだろう。

 こうした差異はあるが、基本的に、バイオ医薬の破壊的イノベーションは「新市場型破壊」と一致する。しかし、ここで留意しておきたいのは、この新市場型破壊というジレンマだけでは、今回の医薬品業界における優良企業の出遅れを十分に説明できないということである。

 たとえバイオ医薬にシフトする企業が出てきても、生活習慣病領域の患者が消えるわけではない。そのため、特許切れ後も低分子薬の長期収載品で十分収益を持続させることができるなら問題ないからだ。これこそ、先に指摘した「必ず需要が存在する」という医薬品業界の特性が大きい。ここでポイントとなるのが、GE、OTCメーカーの台頭である。