医薬品産業の特性は何か

 医薬品産業の特性は、まさに医薬品産業が生命にかかわる産業であることに由来する。たとえば、電機や半導体、自動車などの一般的な産業では、どんなにすばらしい製品を作っても、その価値が消費者に認められ、需要に結びつかなければ、決して売上を生むことはない。しかし、医薬品産業では事情が異なる。人は生きていれば、何かしらの病気にかかる。そのため、疾患領域ごとに市場の大きさはある程度決まっているとはいえ、製薬メーカーが開発した薬剤には「需要が必ず存在する」。これが、この業界の第1の特性である。

 では、医薬品業界は参入障壁の低い業界なのかというと、決してそうとはいえない。生命にかかわる産業だからこそ、医薬品産業にはさまざまな規制が敷かれている。

 薬剤には、通常の製品よりもはるかに厳しい安全性が求められる。薬剤には何段階にもわたる審査があり、薬剤が承認されるまでには莫大な時間がかかる。多くの資金を投下しか製品が審査当局によって開発中止に追い込まれることも少なくない。苦労して審査を通過し製品化にこぎつけた薬剤が、もしすぐに他社に模倣されれば、投じた資金を回収できなくなってしまう。そうなると製薬メーカーは継続して薬剤を開発することができなくなり、ひいては画期的な効能を持つ新薬を開発するインセンティブが失われてしまう。

 こうした現象が起こるのは社会的に非効率であり、患者の利益に相反する。そこで、各国政府は、製薬メーカーが開発した薬剤に対して特許で保護することにより、製薬メーカーに独占的な販売期間を認め、一定の利益を約束している。生命にかかわる産業だからこそ、政府は審査や特許をはじめとする数多くの規制を設けているのである。

「医薬品産業は規制産業である」。これがこの業界の第2の特性である。