フランスの言語政策について

フランスは世界に冠たるモノリンガル(単一言語)政策国家でしたが、それが変わり始めました。突破口は、ドイツとの国境地帯のアルザス州でした。

ここは、住民の多くがフランス語とドイツ語のバイリンガルであることから、仏独両語のバイリンガル教育を小学校レベルから希望する声がかねがね強く、70年代から小学校でのドイツ語教育が少しずつ始まっていました。

93年ン、小学校で、仏独両語のバイリンガル授業を導入。バイリンガル学級と非バイリンガル学級が併置され、バイリンガル学級では、週6時間の授業を独仏それぞれ13時間ずつ行っています。この地方のストラスブール大学区の言語教育評価委員会が発表した、バイリンガル授業を選択している児童の学力調査報告書によると、バイリンガル授業を選択している児童の比率は、68%に達します。バイリンガル学級の児童と非バイリンガル学級の児童とのフランス語の基礎学力の間にはほとんど差はありません。

もっとも、ここでは外国語とのバイリンガルではなく、「地域語」とのバイリンガルと捉えて行われています。

ジョスパン法では、付属報告書で「小学校から外国語の入門教育を開始する」ことを明記、外国語教育の重視を正面から掲げました。これを受けて、小学校第二学年からの外国語教育が進められています。

フランス語の学習時間を利用して、美度尾などを使い、選択的に外国語教育を行います。そこでは言語をコミュニケーションの道具、音響現象、文化情報媒体ととらえ、会話および翻訳能力をつけることに最重点を置く教育理念が強調されています。

ただ、外国語教育重視と言っても、内実は英語教育の強化が狙いです。

国民教育相は、実施にあたって、公立小学校にビデオを配付しましたが、その内訳は英語1万3400本、ドイツ語3600本、スペイン語1800本、イタリア語1200本となっています。標的は英語です。

にもかかわらず、フランスは、英語に対する激しいライバル意識を捨てていません。

フランスは、グローバリゼーションの流れの中でフランス語の国際的地位が目立って低下していることに危機感を強めており、フランス語擁護のための施策を次々と打ち出しています。

公共の場でのフランス語の使用を義務付けたトィポン法もその一つです。政府の公文書では、メディアがそのまま使っているスタート・アップ、ヘッジファンド、ストック・オプションなどの言葉を、いちいちフランス語に置き換えなければなりません。

政府はまた、すべてのフランス人が国語をきちんと使いこなせるためには幼稚園からの語学教育が重要だとして、幼稚園の入園年齢を現行の3歳から2歳に引き下げることも検討しています。

フランスの言語戦略はこのように、

国語であるフランス語の純度と国際的地位の確保
多様性推進のための地域語の重視
欧州域内多言語主義の尊重

を重層的に組み合わせてできています。

ただ、「フランス共和国の言語はフランス語である」という憲法の規定が、その中核の思想であることは間違いありません。フランス政府は、EUの「欧州地域少数言語憲章」を当初歓迎していましたが、司法当局がそれは「フランス共和国の言語はフランス語である」とする現行フランス憲法に抵触するとの判断を示したことで、署名には至っていません。