医療費改定の行政手続きについて


医療保障制度が整備される以前においては、医療サービスの料金(医療費)は医師の裁量に委ねられていました。富裕な階層から高額な医療費を徴収し、貧困層には無償でサービスを提供するという、医師個人による社会保障が行われていたようです。日本では、1927年に健康保険法が施行されて保険診療が始まった後は、医療費に対する医師の裁量権が次第に制限され、国民皆保険を3年後に控えた58年の「新医療費体系」以後は、医師の裁量権は完全に消滅し政府が主導権を握りました。

健康保険法第76条第2項は「療養の給付の額は厚生労働大臣が決定する」と規定しています。しかし、実際には厚生労働大臣の独裁ではなく、大臣決定に先立ってさまざまな行政上の手続きが取られています。厚生労働大臣の決定に大きな影響を及ぼしているのが、同省に設置されている中央社会保険医療協議会(中医協)です。なお都道府県には地方社会保険医療協議会(中医協)が設置されています。

中医協中央社会保険医療協議会法に基づく審議会です。委員20名で構成され、その内訳は保険者・経営者・労働者の代表が8名(支払側、法律条文から1号委員ともいう)そして学識経験委員4名(公益側、3号委員)です。経営者代表、労働者代表が参加しているのは医療保険料の負担者であることによります。

中医協には様々な分化会がありますが、重要事項は総会の議を経て決定されます。社会保険診療報酬と老人診療報酬の改定、保険医療に使用できる医薬品の銘柄とその価格を規定した薬価基準の改定、心臓ペースメーカーなどの医療機器その他の材料価格の決定は、中医協総会の付議事項です。また中医協は特定療養費の対象となる高度先進医療を実施する特定承認保険医療機関の指定も行っています。

中医協における医療費改定の審議は、水面下では継続的に調整が図られていますが、表向きは厚生労働大臣から医療費改定についての諮問を受けて始められることになっています。諮問を受けた中医協はい因性で意見集約を図り、審議結果を厚生労働大臣に答申します。答申を受けた厚生労働大臣は答申を尊重して医療費などの改定を決定し告示します。以上が医療費改定の行政手続きの骨子です。