医学は未完のプロジェクト


医学は科学です。それは人体の自然科学的認識を基礎に置くからです。特に19世紀ドイツで、医学の自然科学的側面が強調されました。しかし、医学はそれだけでは完結しません。医学の対象は病という悩みを持つ人間です。医学の基本は臨床医学です。したがって、医学は科学理論というよりも、むしろ病む人間を対象とする技術なのです。医学は、その意味で、優れて医術なのです。古代ギリシャ以来、それが「イアトリケー・テクネー」すなわち医術と呼ばれてきたのには十分な理由があります。「史記」にも医学は技術として登場してきます。「甚大な謝礼をもらおうとする」技術の一種としての医術として。

近代医学の目覚ましい成功は、人間を機械として、すなわちヒトしてみる観点に追うところが大きいです。病人は17世紀には力学的システムとして見られ、19世紀になって精密な化学のシステムとして見られるようになりました。21世紀の現在は、生化学的システムとして見られています。要するに、医術は自然諸科学を統合した知識の上に立つ癒しの術なのです。さらに、それは、高度な技術を備えるだけではなく、患者への深いモラル的配慮をもった癒し人のわざであるべきです。自然科学は完成ということを知りません。人が機械のシステムとして完璧に認識され尽くすということはないでしょう。近代自然科学体系としての医学は常に未完のプロジェクトなのです。この医術の冷徹な現実を見つめた者の言語表現を援用していえば、医者はしばしば欠陥商品を売り続けています。しかもそれは回避できない我々の義務である。血管商品を売らなければならないのは、医術の対象が病に悩む人間だからです。医術はその意味で待ったなしの勝負なのです。