英語で考えよう:日本語を直訳して話すと文法的なミスを犯す

 マタとヨシは官本をストーカーのごとく追った。(本物英語を学ぶとは、本物の人間に近づき技を盗むことだ。)タク先生の言葉が耳のなかでこだました。

 有楽町の外国人記者クラブで開かれる捕鯨ディベートに、宮本速蔵がプロ・ディベーターとして招かれているという情報を洩らしたのもタクであった。

 “Foreign correspondents are all spies. l don't want to be part of them.”(外国特派員をみればスパイと思え。あんなやつらとはつきあわない)とヨシは言う。

 “You're prejudiced against them. Journalists themselves are spies.”(そりゃ偏見だ。ジャーナリストそのものがスパイなのだ。)’

 二人の英語は初歩的だが、会えば英語でディベートをしていた。二人が会えば敢えて衝突する。タク先生が二人に言ったことがある。

 “Agree to disagree. That's what debate is all about.You see, conflict is opportunity among debaters.”(反論しあうことに合意すること、これがディベートの全てだ。意見の衝突があることは、ディベーターにとってチャンスなのだ。)

 日本語でいうチャンスはchanceではなく、opportunityのことであり、それは真実に近づくばかりでなく、英語を伸ばすチャンスにも繋がるのだ。

 ある日、二人が道を歩いていると、外国人に犬が吼えていた。それを見たヨシが、英語でその時に感じたことを表現してみた。

 “The dog is barking at him, because he's a foreigner.”

 とっさの英語だから、「どうだオレも英語で考えているだろう。筆記試験から離れても英語が話せるのだ」と得意気であった。

 その時海外経験のあるマタは、“l disagree. The dog is barking at him, because he's a stranger.” と答えた。その通りだ。犬が吼えるのはガイジンだからというのは偏見である。見知らぬ人だから吼えるというのが、ロジカルである。

 二人は議論を始めた。

マタ:Your speech isn't logical.

ヨシ:But it surely makes sense. Didn't you hear the dog still barking?

 (But it surely makes よりBut it does make sense の方が英語らしい。 Didn't you hear...?というのは日本語の直訳で文法的なミス。犬がまだ吼えているのが聞こえなかったかい、という「なかった」という日本語の言い回しに、無意識にひっぱられ過去形を用いたからだ。l heard it. の英語のニュアンスは「それが聞こえた」ではなく、「昔は聞こえたが、今は聞こえない」である。その点、海外帰りのマタは現在形で返した。)

マタ:Yes l hear thatバたしかに聞こえたよ。)

 What l mean is what you said didn't make any logical sense. That's all. (ぼくの言わんとしていることは、君の発言にはロジックがないということだ。)

ヨシ:In fact, I was thinking in English at that time. That's why l said that in English on the spur of the moment. (実は、あの時英語で考えていたのだ。だからとっさに英語で答えられたのだ。)