遺伝子組換え作物でバイオ企業が儲かる仕組み

 遺伝子組換えを行った植物が最初に市場に登場したのはアメリカで、「フレーバーセーバー」という商品名がつけられたトマトだった。ふつうのトマトは赤く熟すとその後すぐにやわらかくつぶれてしまう。未熟なトマトが固いのはペクチンという糖質がしっかり結合しているためで、熟すとポリガラクチュロナーゼという酵素が分泌されペクチンを壊してしまう。この酵素の遺伝子の働きを止めることで熟しても日持ちのよいトマトができあがる。

 このような特定の遺伝子の働きを止めるためにはアンチセンス法が用いられる。アンチセンス法とは、タンパク質がつくられるとき、DNAの塩基配列をRNAが読みとらなければならないので、このRNAとぴったりくっつく塩基配列(アンチセンスという)を人工的に合成して、RNAの働きを妨害する方法である。こうすれば遺伝子はタンパク質をつくれない。

 フレーバーセーバーは畑で赤く熟してから収穫しても心配ないので味がよく、長距離輸送にも強く、小売店も店頭で長く売れるのでありかたい商品となる。

 また、日本に輸入された害虫に抵抗力をもつトウモロコシとジャガイモに導入された遺伝子は、土壌細菌のバチルスーチューリングンシス菌(Bt菌)という細菌がもつもので、ある種の昆虫だけに作用する毒素タンパク質をつくる。それを植物であるトウモロコシやジャガイモに導入すると、今度はトウモロコシやジャガイモが細胞でBtタンパク質をつくるようになり、茎や葉をかじった害虫が死んでしまう。

 害虫耐性を与えられた植物には害虫がつかないので、畑に散布する農薬の量を減らすことができるため、農家の経営効率を高めるとともに、環境にもよいといえる。

 さらに、除草剤に抵抗力をもつダイスとナクネには、土壌にすむアグロバクテリウム菌のうち除草剤に抵抗力をもつ耐性菌を選び出し、その細菌から耐性遺伝子を取り出して導入された。とくにダイズはもともと除草剤に弱く、一回に大量にまくと雑草とともにダイスも枯れてしまうため、これまでは少量の薬剤を何回にも分けて散布する必要があった。それが除草剤に耐性をもたせることで散布する回数を減らすことができ、やはり経済性が向上する。

 このように、遺伝子組換え作物によって農家はお金を節約できる。しかし、それ以上にこの作物をつくり出したバイオ企業が儲かるしくみになっている。なぜなら、除草剤耐性をもつ遺伝子組換え作物はふつうそれをつくったバイオ企業の農薬や除草剤にしか耐性をもたないので、企業は作物の種を売るときに、農薬や除草剤も抱き合わせで農家に買わせることができるからだ。