肥満の原因は「エネルギー節約遺伝子」なのか

 子が親に似るのは、ゲノムの半分ずつを父親と母親からもらって誕生するからだ。だから、両親の形質を受け継ぐことは至極当然のことだ。そうならば、顔かたちのみならず、親のさまざまな特徴が子に遺伝されるだろう。そのうち今最もホットな話題は太りやすい体質の遺伝についてである。つまり、「肥満」は遺伝子のせいかどうかだ。

 従来肥満は生活習慣に主たる原因があるとされてきた。高カロリーの食事をとって、運動もせずにごろごろしていたら「太るのは当たり前だろう!・」というわけだ。そのため、肥満はなまけのものの体形とされ、自己管理能力がないとまでいわれた。

 しかし親子の肥満調査によれば、両親ともに正常体重である場合の子どもの肥満率が約一〇%であるのに対して、両親のうちどちらか一方が肥満の場合は子供の約五〇%が肥満になり、両親とも肥満なら八〇%が肥満になるという。そこには遺伝的な背景が十分に予想される。

 肥満度をはかる指標には一般にBMI(ボディーマスーインデックス)が用いられる。BMIは体重を身長の二乗で割って求められる数値だ。 日本肥満学会では、BMIが二二を標準体重とし二四・二以上を過体重、二六・四以上を肥満と規定している。この基準に当てはめれば、日本人の場合、二〇代の男性の八・一%、女性の四・七%が肥満で、三〇代では一四・五%の男性が、七・二%の女性が肥満とされる。肥満者の割合がピークを迎えるのは、男性の場合は四〇代で一五・〇%、女性は六〇代で一八・四%となっている。

 そしてほとんどの世代で肥満者の割合が年々増加している。その理由は高脂肪食の浸透で、日本人の肥満度は欧米なみに近づいている。実際、肥満社会として日本より前を走るアメリカでは、国民の三分の一がすでに肥満であるとさえいわれている。生活環境の変化が肥満をもたらしているとするなら、そこには「遺伝」の影響がないか少ないように思える。太ったのは遺伝のせいではなく、ハンバーガーを食べ過ぎたからだと。

 しかしよくよく考えてみると、ハンバーガーを食べ過ぎるとなぜ太るのか。なぜヒトは食べ過ぎた余分なエネルギーをすぐに排出してしまわないのか。は「干不ルギー節約遺伝子」説を提唱した。つまり「ヒトには余分なエネルギーを蓄えておく性質」がもともとあるというのだ。ヒトは五〇〇万年の歴史の中でいつも飢えと戦ってきた。狩りはいつも成功するとは限らず、天候にも左右されて、満足な食事をとれる日は少なかった。そのためわずかでもカロリーに余剰が出ると、それを捨ててしまわずに、大切に体内にためこんでおくようになったという説だ。

 ヒトには元来このような干不ルギーを節約するような遺伝的な背景があり、それが現代になって予期せぬ飽食の時代を迎えたために、先進諸国で肥満者が急増した。つまり、ヒトという種全体が遺伝的に肥満になりやすいのかも知れない。もっとも、「エネルギー節約遺伝子」は仮説であってそんな遺伝子が見つかったわけではない。