小林製薬の経営方針はニッチ市場の創出&席巻

 小林製薬では、「ブルーレッドおくだけ」や「サワデー」などのトイレタリー製品をはじめとする家庭用品が主力事業として売上高の80%を、OTC事業が残りの20%を占めている。同社の09年度の売上高は1292億円、営業利益は171億円で、OTC業界でも高収益を誇っている
企業である。この節では、小林製薬を例にとり、OTCメーカーの成長戦略とその際にカギとなる重要な要素を探っていく。

 では、最近ヒットした小林製薬のOTC製品「ナイシトール」の例を見てみよう。「ナイシトール」とはその名のとおり「内臓脂肪(内脂)を取る」という効能をうたった肥満防止剤である。肥満防止剤市場はこれまでそれほど大きな市場ではなかったが、小林製薬の「ナイシトール」投入とともに、市場が急拡大した。また、「ナイシトール」自体の売上も順調に伸びていった。

 では、なぜこの製品はこれほど大きく売上を伸ばすことができたのか。その要因は、「肥満を薬で治療・予防できる」という意識を消費者に植えつけることに成功したところにあった。実は、近年注目を集めている「メタボリックーシンドローム」などのキーワードの火付け役は小林製薬だったのである。

 小林製薬は「ナイシトール」の例に見られるような、潜在市場へ製品を投入するというモデルを他の多くの製品でも成功させている。たとえば、読者も一度は使ったことがあるであろう「キズドライ」。この製品が市場に投入されるまで消費者は、転んでケガをしても、絆創膏や赤チンしか治療手段がなかった。そこに小林製薬が「キズドライ」という製品を投入することで、患部にスプレーするという簡単で快適な治療方法を消費者に提供したのだ。また、目にゴミや花粉が入っても、目薬をさしたり、水で目を洗ったりすることしかできなかった時代に小林製薬は、目を薬で洗う「アイホン」という革新的な製品を提供した。「のどぬ~るスプレー」や、さかむけをケアする「サカムケア」についても同様のことがいえる。

 こうした画期的製品を見てもわかるように、小林製薬は潜在的なニーズを発掘し、革新的な製品を市場投入することで収益をあげ続けている企業なのである。

 この成長戦略の成果を定量的に示すために、小林製薬が取り組んでいる主要市場でのシェアを示した。ここから同社は、巨大市場をねらうのではなく、潜在的な需要のある市場に革新的な製品を投入することにより、比較的小規模な市場で圧倒的に高いシェアをとっているという特徴が見て取れる。つまり、消費者が「あったらいいな」と思う問題解決型製品を投入することで、消費者に潜在的ニーズを認知させ、認知度の向上とともにシェアを高めているのである。まさに、市場創造型企業といえる。

 経営方針を見ても、そのスタイルの一貫性がうかがえる。小林製薬は「創造と革新」をモットーとしている。ニッチ市場で画期的な製品を生み出して大きく育て、ナンバーワンを維持することに注力しているのである。それは戦略目標にも表れている。新製品では初年度売上寄与率10%を、直近4年間の新製品では35~45%の売上寄与率を目指している。製品の売上高やシェア、特徴のある製品群などからも、同社の創造と革新は大きな競争優位となっている。

 では、なぜ小林製薬はこのような戦略をとっているのか。そのきっかけは、過去のとあるエピソードに隠れている。創業当時の小林製薬は卸売専業企業であり、自ら製造・販売事業に乗り出す決意をしたのが当時役員だった小林一雅氏だった。小林氏のアメリカ留学が、卸売業と同時に製造業にも進出することになったきっかけたといわれている。

 しかし、当時の社内では、「安定的な収益源である卸売事業があるなかでリスクは冒せない」「取引相手と競合を生むような取引関係はタブー」という見方があった。そのため、自社の卸売事業の顧客が販売する既存の製品とは競合しない製品を作り出すことが必要となり、ニッチ分野での製品開発を行うことになったのである。そのなかで1969年の「ブルーレッド」や、75年の「サワデー」など、その当時、他にはなかった新製品を発売して大成功を収めたことで、同社の経営方針「創造と革新」が決定したのだ。