女性てんかん患者の月経障害


女性てんかん患者に無月経などの月経異常がみられることは珍しくありません。Herzogらは側頭葉てんかん(TLE)を持つ女性患者50例のうち28例に月経異常を認めたと報告しており、その内訳は無月経8例、稀発月経10例および月経周期異常10例であったと述べています。さらに月経異常を呈した28例のうち19例に黄体刺激ホルモンや卵胞刺激ホルモンなどの性ホルモン異常を認めています。また10例が多嚢胞性卵巣症候群(PCO)、6例が視床下部不全と診断されたと報告しています。なかでもPCOの発症率20%は一般人口における発症率約5%に比して有意に高頻度であると指摘し、てんかんPCOとの関連を推測しています。Biloらは突発性全般てんかん(IGE)を持つ女性患者20例のうち6名が稀発月経などの月経異常を呈し、うち3例がPCO、2例が視床下部性卵巣機能不全であったと述べ、さらに月経異常を認めなかった例においてもPSHおよびプロラクチン(PRL)が正常対照群よりも有意に高値であったと指摘しています。このほかMurialdoらは101例中22例に何らかの月経異常を認め、Isojarviらは65例中23例にPCOまたは高アンドロゲン血症を認めています。

以上の報告により、女性てんかん患者の約20~50%に月経異常が存在することが示され、これは一般人口に比し高頻度な割合と考えられます。

月経異常の原因としてPCO視床下部機能不全が挙げられますが、なかでもPCOの合併が多いことが注目されます。ただこれらの報告の問題点として、対象数が少ないこと、多数の健常コントロールとの比較がされていないこと、月経異常の診断基準にはばらつきがあることが挙げられます。結論を出すためには今後もさらに多数例での検討が必要でしょう。

従来報告ならびに自験例の結果より女性てんかん患者に月経異常が高頻度に認められることが示されましたが、その原因はいまだ解明されていません。HerzogらはTLEにおいては内側側頭部の発作放電が辺縁系を刺激し、ドーパミンやプロラクチン変化することによりLH、FSHの分泌異常が引き起こされ、PCOなどの月経障害を呈するとの仮説を述べています。さらに側頭葉辺縁系の発作間欠時てんかん性異常波がLHとPRLの分泌異常と関連することを示し、TLEと内分泌機能異常の異常を強調しています。しかしTLEのみならずPGEにおいても月経異常が高頻度であることや、またてんかん類型との関連が認められなかったとする報告もあることから、辺縁系の発作放電のみでてんかんと内分泌障害との関連を説明することは困難です。種々のてんかん類型別に多数例の検討が必要でしょう。