パルスオキシメーターの購入前に知っておくべきこと


パルスオキシメーター発明の特許は日本光電が取りました。ところが、日本光電は特許を取り試作品は作ったものの製品化しませんでした。推測ですが、当時の日本光電はこういう光学機器を試作する能力はあっても、製品化する技術力がなく、販売する見通しを取れなかったのでしょう。

製品化したのはミノルタ(現在のコニカミノルタ)です。偶然にも、ミノルタの研究員が同じ着想からパルスオキシメータの試作品を作りました。申請した日本の特許は日本光電より遅かったので却下されましたが、ミノルタは国際特許を取りさらに製品化しました。

現在のパルスオキシメーターに直結したのは、このミノルタの製品です。なぜなら、アメリカの人たちがこれを見て本当に高性能で、使える装置として完成させたからです。その基礎は、アメリカの医療がこうした測定を必要としたという「必要は発明の母」的な要素もあり、一方技術的にもディジタル回路の応用や当時発明されて間もなかったマイクロコンピュータを組み込む技術で、日本よりもアメリカが先行していた点も理由です。家電製品でもハイテク製品でも「原理は外国で完成は日本」といったものが少なくありませんが、その意味でパススオキシメーターは異色の経歴を持っています。

パルスオキシメーターは、装置としてもうまく自動化されており、誰が使っても正確な数値が得られ、故障もしません。価格も当初は100万円以上でしたが、現在では簡易型は数万円まで低下しており、得られる情報の重要性の割に非常に安価で、医療の場だけでなくて登山者や高知トレッキングの型も持参するようです。

パルスオキシメーターがもたらしたものは、想像以上でした。血液中のヘモグロビンがどのくらい酸素で満たされているかを示す酸素飽和度は、時々刻々変化するパラメーターですから、それが連続的にモニターできることは有用です。それに、採血して血液ガスを測定している時代には、「空気と同じ濃度の酸素を吸っていたのでは血液の酸素が正常レベルに保てない」ことは、若い医師には納得の難しいテーマでした。医師になるまでの教育課程ではそういう理屈を教えてもらう機会がなかった故です。それで、この問題をしっかり身につけるには出来の良い若者が数か月一生懸命勉強し、さらに採血して証拠を確認する手順を要しました。

パルスオキシメーターを使えば、こんな回りくどい手順は不要です。パラメーターは理解しやすく、麻酔や手術を受けている患者の肺の状態が教科書通り良好ではないことが一目瞭然に判明します。「勉強する必要がなくなった」わけではありませんが、もっと別の方面の医学に力を注げるようになったわけです。

もうひとつ、パルスオキシメーターが全く別のパラメーターを示している点が注目されました。血液です。パルスオキシメーターは、検出装置を指先につけて、光を当てて底を流れている動脈血の色を見ることによって酸素の量をモニターします。その際に、「拍動している成分が動脈血」として動脈血の情報を取り出すので、指先に動脈血が拍動しながら流れていることも示します。

この点を二つの手段として使用します。一つは、血流事態を確認したい場合、例えば何かの病気で四肢の血流が悪くなった時に、その末梢部にパルスオキシメーターをつけて血流を評価できます。以前からこの種の装置はあったのですが、それは特殊な目的で作られたもので、装置が普及していなかったので「血流を評価する」という手法や考え方も普及しませんでした。パルスオキシメーターが行き渡って、そういう目的に使われるようになりました。

もう一つは、「心臓が確かに血液を拍出している」確認です。心電図のモニターはそれ以前から普及していましたが、こちらは電気現象です。ところが、麻酔では心臓の電気現象と機械的な活動が個別に検出できるのはありがたいことです。

パルスオキシメーターにも苦手な状況があります。何しろ動脈が拍動していることから情報を得ているので、動脈の拍動自体がない状況では情報が得られず、具体的には人工心肺使用時には使えません。また、心臓の拍出点から機器の計測点まで血流が流れるには時間を要します。ノイズの除去などの機器の内部処理にも数秒かかるので、パルスオキシメーターの表示する値は数秒前の数値になってしまいます。

パルスオキシメーターは、「肺が酸素を血液に乗せる働き」を見る装置で「呼吸している」こと自体の検出力は強力とはいえません。とくに、高濃度装置を吸っていると、呼吸が停止しても動脈血の酸素が低下するには時間がかかる分だけ、検出が遅れます。