急性細気管支炎

 急性細気管支炎(毛細気管支炎)は冬から春にかけて、主として6ヵ月未満の乳児に好発する、細気管支の炎症と閉塞を主体とするウイルス性の呼吸器感染症である。細気管支の狭窄は呼気時により著しく、エアートラッピングにより肺の過膨張をきたす。また、細気管支が完全に閉塞したところでは末細は無気肺となる。広範な細気管支の障害により肺胞換気が減少し、低酸素血症となる。乳児に好発するため気道狭窄症状が強く現れる。先天良心疾患や気管支肺異形成(BPD)のような慢性肺疾患などの基礎疾患があると致命的となることかおり、注意を要する。病因としては多くはRSウイルスによるが、ほかにパラインフルエンザウイルスやアデノウイルスなどがある。

 臨床症状は1~2日間の感冒症状に続いて、咳嗽・喘鳴が出現し、多呼吸、陥没呼吸などの呼吸困難が次第に増強する。3か月未満の乳児では無呼吸発作を認めることがある。発熱は軽度で高熱を認めることはまれである。数日間の極期を過ぎると呼吸状態は次第に改善する。


1……診断

1)診断はおもに臨床症状、細部X細所見、年齢、RSウイルスの流行状況などからなされる。

2) RSウイルスに関しては鼻咽頭分泌液からの抗原迅速検出法があり、有用である。

3)細部X細所見は肺の過膨張が特徴的であり、肺門部や肺実質の斑状の浸潤陰影などを認めることもある。

4)鑑別診断としては気管内異物、百日咳、乳児喘息、ウイルス性肺炎、クラミジア肺炎、うっ血性心不全などがあげられる。

 

2……治療

1)酸素療法と呼吸管理

 呼吸困難を認める場合は、動脈血ガス分析により低酸素血症や高炭酸ガス血症の程度を確認する。必要に応じてヘッドボックスや鼻カニューレなどを用いて酸素投与を行う。パルスオキシメーターによりPao2のモニターを行う(95%以上を目標とする)。上体を挙上し(30~45度)、頭部を少し後屈させる。胸部のタッピング、喀痰の吸引を適宜行う。

 呼吸不全が進行する時(酸素投与にもかかわらずPao2が上昇しない場合、Paco2が上昇する場合)や無呼吸を繰り返す場合は、気管内挿管のうえ人工呼吸管理が必要となる。

2)輸液療法

 発熱、多呼吸による不感蒸泄の増加、経口摂取の減少による脱水を補うため適切な輸液を行う。

3)薬物療法

 ①吸入療法:気管支拡張剤(β2刺激剤)の吸入はある程度有効であり、年齢・体重と重症度に応じて行われる。重症例では1時間ごとの吸入も可能であるが、酸素投与と併用し酸素飽和度をモニターしながら行う。

 ②抗生物質はRSウイルスそのものには無効であるが、他の疾患との鑑別ができない時(百日咳、クラミジア肺炎など)や細菌感染の合併を考える場合には適切な抗生物質の投与を行う。

 ③カンマグロブリンの投与は有効との報告がある。

 ④テオフィリンの有効性は明らかではない。乳児に使用する場合は血中濃度の充分な管理が必要である。頻脈、易刺激性の亢進を認める場合や効果のない場合は中止する。

 ⑤副腎皮質ステロイド剤の投与の是非については明らかにされていない。乳児喘息との鑑別を含めて適応には慎重を要する。

 ⑥抗ウイルス剤であるリハビリンの吸入療法が欧米では行われることもあるが、わが国では入手できず一般的ではない。

 

入院治療中の観察のポイント

RSウイルスはきわめて日常的なウイルスであり、乳幼児の細気管支炎や肺炎として入院治療を行う機会が多い。近年、RSウイルスによる院内感染が高率に起こることが注目されている。患者間の感染以外に、医療従事者が院内感染の重要な原因となっているといわれている。年長児や成人では軽い「かぜ症状」として見過ごされやすく、ウイルスの拡散を招きやすい。心疾患や慢性肺疾患などハイリスクの患者が入院している場合、特に院内感染への対策は重要である。

看護にあたっては特に呼吸状態の把握に注意する。呼吸数や努力呼吸の程度(鼻翼呼吸、陥没呼吸など)が重要である。パルスオキシメーターを使っての酸素飽和度のモニターも行う。

新生児や乳児期早期では突然の無呼吸を起こすことかおり、重症例では呼吸・心拍モニターなどを用いて厳重なバイタルサインの監視が必要である。

将来において気管支喘息の発疱との関連が注目されているが、詳細は不明である。ただし、身近に喫煙者がいる場合には有意気管支喘息の発症率が高いようである。