豚肉を毎日食べても癌が少ない沖縄県の不思議

国内の長寿地域や長寿村に目を向けると、都道府県単位の平均寿命で最も長寿なのは沖縄県です。

 日本人の平均寿命は男76・3歳、女82・5歳ですが、厚生省が5年ごとに出している都道府県別生命表によると、沖縄県は男76・7歳(全国5位)、女84・5歳(全国1位)で、いまや世界一の長寿国となったわが国における文字どおり世界一の長寿地域ということができます。

 しかも、高齢になるほどガンがふえる事実からすれば、最長寿の沖縄県は最もガン死亡率が高い県であっても不思議はないはずですが、全国のガン死亡率が人口10万人あたり年間約188人なのに対して、沖縄県では約142人と、全都道府県で最もガンが少ないのは特筆すべきことです。

 沖縄県のなかでも長寿者が多いことが知られる大宜味村の食生活を調査した琉球大学医学部の松崎俊久教授によれば、大宜味村のお年寄りは、短命村のサンプルとしてとり上げた秋田県南外村のお年寄りにくらべ、豆類(豆腐などを含む)を多くとり、緑黄色野菜を4倍近くもとっていました。意外に思われるのは肉類も2倍以上も多くとっていることです。

 そのほとんどは豚肉で、沖縄県全体でみても戦前戦後を通じて豚肉の摂取量が全国一多い県となっています。これは仏教の戒律に縛られることのなかった沖縄の伝統的風土と関係があるようですが、その伝統のなかで食べ方にも工夫がなされ、豚肉を長時間煮て脂肪を落としてから料理に用いるため、良質のタンパク質だけを摂取しているのが特色ということです。

 かつてわが国の長寿村を調査して歩いた東北大学の近藤正二名誉教授が注目した村の一つに、山梨県の棡原村(現在の北都留郡上野原町)があります。近藤教授は村の総人口に占める70歳以上の人口を「長寿率」とみなし、1968(昭和43)年当時、わが国全体の長寿率が2・65%だったのに対して、棡原村は約3倍の8・15%たったとしています。しかも、この棡原村では70歳以上の206名のうちに、夫婦そろって健在というケースが28組も含まれていました。

 この算出法では、若年層の人口が村外に流出して老年層の人口が相対的にふえると長寿率が高く出てしまうことから、棡原村を単なる過疎の村とみる学者もいます。

 しかし、その後、調査に訪れた東京医科大学勝沼英宇教授が、40歳以上の人口に占める80歳以上の人口を長寿率として算出し直したところ、全国2・65%に対して棡原村は3・09%とやはり長寿者が多いという結果が得られています。


 当時のガン死亡率が全国では人口10万人あたり年間約113人だったのが、棡原村では約105人と少なく、天寿を全うしたかのような「老衰」による死亡率が全国では人口10万人あたり約56人だったのに対して棡原村は約289人とはるかに多いことも特徴でした。

 棡原村は山梨県の東端に位置し、土地の約80%を山林におおわれた寒村で、村人の多くは高齢になっても自分の足で山を歩き、農作業についています。村の食生活を調査した岩手大学の鷹觜テル名誉教授によると、棡原村では地形上、米が1粒もとれないため、食料の自給率の高かった戦前、戦後のある時期まで「おばく」(米でいえば玄米に相当する玄麦を2~3時間煮込んだもの)やこれに大根のせん切りを加えて煮た「でえこばく」、あわ、きび、とうもろこしなどの雑穀、里いもなどを主食としていました。

 いも類、緑黄色野菜の摂取量も多く、特に里いもはいろりの鍋でこんにやくなどとみそ煮にしたものを秋の収穫から翌春まで常備菜としています。間食にもじゃがいも、さつまいもをよく食べ、またふすまを利用した酒まんじゅうを好んで食しています。桐原村の食生活をコーカサスとくらべると、ヨーグルトなどの乳製品をとっていない点で大きく異なりますが、精白した米や小麦よりも食物繊維やビタミンEの豊富な雑穀を主食としてとるなど、似通った点も多いように思われます。