久光製薬のスイッチOTC戦略

 昨今のスイッチOTC市場は、政府が推し進める医療費抑制政策のもと、非常に重要性が増しているからである。スイッチOTC市場は、伸び悩んでいたOTC市場を再拡大させる契機となっている。今後も、国のバックアップを背景にスイッチOTCは、OTC市場の起爆剤となる可能性がある。

 しかし、スイッチOTC市場への参入はそう簡単ではない。なぜなら、スイッチOTCに用いられる成分は、新薬メーカーが相当の時間的・経済的コストをかけて開発した努力の賜物であり、実際に研究開発に携わった企業でなければスイッチ成分を製造することは困難だと考えられるからである。

 「売上高に占める新薬事業の割合が大きい企業」と「割合が小さいOTCメーカー」という2つのタイプの企業群で、スイッチOTCの売上高貢献度が高いことが読み取れる。

 前者のタイプには、久光製薬武田薬品が、後者の夕イプには、第一三共ヘルスケア、エスエス製薬(外資系新薬メーカーであるベーリンガーイングルハイムの子会社)があてはまる。スイッチOTC市場は、新薬事業と関連性の高いOTCメーカーが中心となって形成されているといえそうである。

 では、実際、どのようにしてスイッチOTCを発売しているのか。ここでは、最もスイッチOTCの売上高貢献度が高い久光製薬を例にとり、スイッチOTC発売までの方法論を解き明かしていく。

 新薬事業での知見を活かしたスイッチOTC

 現在発売している主要OTCブランドのなかで、サロンパスシリーズの一部を除いてほとんどの製品がスイッチOTCである。特に近年、スイッチOTCとして発売された「フェイタス」と「ブテナロック」に注目してみよう。

 「フェイタス」は外用消炎鎮痛剤で、スイッチ成分「フェルビナク」を配合した製品である。「ブテナロック」は水虫薬で、スイッチ成分「塩酸ブテナフィン」を配合した製品である。フェイタスブテナロックともに2003年に発売され、堅調に売上を伸ばしている。特に「フェイタス」は08年度まで一貫して売上を伸ばしており、スイッチOTC戦略は非常にうまくいっていることがうかがえる。また、これらがOTC事業全体の収益拡大に大きく寄与している。

 では、これら2製品は、どのような背景のもとに発売されたのか。この疑問に答えるために、久光製薬がスイッチ化した新薬成分の詳細を見ておこう。久光製薬のスイッチOTCのなかで4つの薬効成分を挙げている。ここから同社が、もともと医療用として使用実績のある成分をスイッチOTCに転用することによって収益を伸ばしていることがわかる。つまり、自社が持つ新薬事業の知見をスイッチOTCにそのまま活かしているのである。これが、久光製薬のスイッチOTC市場での活躍のカギだといえる。

 新薬事業はスイッチ化に不可欠か

 実際、OTCメーカーで新薬事業を保有している企業は少ない。もしスイッチ化において、新薬事業を保有していることが必要条件だとすれば、多くのOTC専業企業はスイッチOTC市場に参入することが不可能となる。言い換えれば、武田薬品第一三共ヘルスケアのような新薬主体の企業グループだけがスイッチ化できることになり、OTC専業企業は成長性のある市場への参入を諦めざるをえないことになってしまう。

 しかし、本当にそうなのか。答えはノーである。反証の最たる例として、大正製薬が挙げられる。次に述べるように、大正製薬は、OTC事業主体のビジネスモデルであるのにもかかわらず、いくつものスイッチOTC販売実績を誇っている。