身体疾患による精神病


 統合失調症に似た症状を呈する身体疾患がいくつかありますが、たいていの場合、明確に診断できるので疑いが生じることはありません。しかし、一部のケースで、とりわけ疾患の初期段階では混乱が見られます。

 統合失調症に似た症状があって統合失調症と誤診されたためにもともとの病気がどれくらい見逃されているのか、についてはかなり議論が分かれています。よく引用される研究ですが、テキサス州のホールらは、統合失調症の診断を受けて入院した三八人の患者を調べ、その三九パーセントが統合失調症症状をもたらした、あるいは統合失調症症状を悪化させるなんらかの身体病をもっていることを明らかにしました。一方、カリフォルニア州コーランらは、二六九人の統合失調症とされた患者を徹底的に調べた結果、明らかに病気が見落とされていたのはただ一人だけでした(側頭葉てんかん)。イギリスの研究では、統合失調症と診断された三一八人の入院患者の八八‐‐セントが、「器質性脳障害が発病前にあった」と報告されています。しかし別のイギリスの研究では、二六八人の統合失調症の初回入院者で明らかな器質性疾患をもつ者は六パーセント以下であるとしています。また二〇〇人にのぼる統合失調症の剖検〔死後の解剖検査〕では、「病因的に関連のある器質性脳障害は、一一パーセントであった」とされています。結局わかっていることは、統合失調症とされている人の一部に統合失調症の症状を引き起こす身体疾患にかかっている人がいて、この身体疾患の一部は治療可能であるということです。

 


統合失調症の症状を呈する可能性のある重要な疾患は以下のとおりです。

脳腫瘍

 下垂体腫瘍はとくに、統合失調症症状の原因となりますが、たとえば側頭葉の髄膜腫などそれ以外の腫瘍でも起きます。脳腫瘍は通常MRIスキャンで発見でき、その初期では、たいてい手術によって治癒可能です。

ウイルス性脳炎

 ウイルス性脳炎が統合失調症様症状を呈することは、以前から知られていましたが、脳炎の徴候や症状がはっきりする前の段階で、統合失調症様症状を呈することがしだいにわかってきました。

 しかし、これがどの程度頻繁に起こるのかは不明です。三一例のウイルス脳炎を調査した最近の報告では、統合失調症様症状を呈するさまざまなウイルス、たとえば単純ヘルペスやEBウイルス、サイトメガロウイルス、風疹、コクサッキー、馬脳炎ウイルスなどが見つかっています。ウイルス性脳炎が疑われた場合は、髄液検査と脳波検査でたいてい診断できます。

側頭葉てんかん

 てんかん統合失調症との関係は、古くから論争の的となっていますが、てんかんの一型である側頭葉てんかんが、しばしば統合失調症様の症状を呈することについては意見の一致が得られています。側頭葉てんかん患者の一七パーセントには、統合失調症の症状があるとの報告があります。

脳梅毒

 近年はそれほど見受けられませんが、梅毒は、統合失調症様症状を起こしうる原因として決して忘れてはなりません。通常の血液検査からその可能性が疑われ、髄液検査で診断は確定します。

多発性硬化症

 多発性硬化症の早期段階で、一般にうつ症状と知能低下が認められ、ときに統合失調症症状が出現します。多発性硬化症のはっきりとした症状が出現するまでのI〇年間、「妄想型統合失調症」と診断されていた女性の報告があります。

ハンチントン舞踏病

 人生中期に発病する遺伝病である(ンチントン舞踏病に対して、「通常、はじめに下される診断」また「最も頻繁な誤診」は統合失調症です。いったん舞踏病の運動が始まれば、正しい診断は明らかとなります。

エイズ

 統合失調症に似た症状を呈する病名リストに、エイズがごく最近新たに追加されました。エイズはそのHIVウイルスの脳への働きのために、ときに統合失調症双極性障害の症状を示すことがあることがはっきりしています。エイズの増加に伴い、統合失調症患者が初回入院した時の通常の診断手続にHIVテストを含めるべきです。

 以上あげたような病気を見つけだすいちばん良い方法は、有能な臨床医による完全な診断手続です。