性同一性障害の原因は遺伝子にあるという研究報告

 同性愛嗜好がホルモンバランスの乱れによるものという説が有力ななか、遺伝子こそが恋愛対象を決めるかも知れないという報告が日本でなされた。問題の遺伝子はショウジョウバエのゲノムから見つかった。

 科学技術振興事業団・創造科学技術推進事業の山元大輔行動進化プロジェクトでは、ショウジョウバエの行動と遺伝子の研究を行っていた。ショウジョウバエのなかにメスに興味をもたない変異体のオスがいて、悟りの意味から「サトリ」と名づけられた。そしてサトリを別のオスと一緒にしたところ、オスに求愛したのだ。サトリは悟ったのではなく、同性愛者だったのである。サトリの遺伝子を調べると、以前からオスにもメスにも性行動を起こす、ブルードレス(不妊)と名づけられていた両性愛の遺伝子だった。

 つまり、ブルードレス遺伝子は性的な嗜好を決める遺伝子で、正常なら異性愛になるが、変異があると、変異のしかたで両性愛や同性愛に変わってしまうのである。ヒトにもブルードレス遺伝子が見つかったわけではないが、見つかる可能性は高いという。ただし、見つかったとしてもブルードレス遺伝子が単独でヒトの性的な嗜好を決定するかどうかはわからない。

 一方、双生児の研究から同性愛の遺伝性を探る研究もある。一九九一年のボストン大学とソースウェスタン大学のグループらによる発表では、一卵性双生児の一方が同性愛者であった場合、他方も同性愛者である率は五五%だったという。対して二卵性の場合は二二%で、ふつうの兄弟で九・二%、養子の兄弟では一一%だった。一卵性双生児はまったく同じ遺伝子をもつクローンで、二卵性双生児は遺伝子的にはふつうの兄弟と何ら変わりない。なぜ、二卵性双生児とふつうの兄弟で数字に二倍もの開きがあるのかは不明だが、環境要因として年齢が同じ二卵性双生児のほうが年齢の違う兄弟より強く影響を受け合うせいかも知れない。

 九三年に行われたアメリカ国立衛生研究所のヘイマー博士らのグループによる同性愛者を中心とした家系調査では、兄弟に同性愛者がいない同性愛者の率が二%であっだのに対して、兄弟に同性愛者がいる同性愛者の率は一二・五%たった。そして兄弟ともに同性愛者に限り、母親の兄弟が同性愛者である率は一〇・三%で、母親の姉妹の息子(従兄弟)では一二・九%だった。対して、父親の兄弟が同性愛者である率は一・五%、父親の姉妹の息子は○%という結果になった。

 こちらの結果からすると、もし同性愛が遺伝するのなら母系遺伝が疑われ、したがって同性愛に関係する遺伝子はX染色体にある可能性が高いとされた。なぜなら、息子は必ずX染色体を母親から、Y染色体を父親からもらうからだ。同グループはともに同性愛である兄弟がX染色体内に共有している塩基配列を調べ、Xq28という領域に同性愛に関係する遺伝子がある可能性を示した。

 ヘイマー博士らのグループは同性愛の直接原因が遺伝子であると断言したわけではなかったが、社会的な反響が大きく、二年後に改めて調査を行い再度同様の結果を得た。ただし、女性同性愛者に関してはXq28の関与はなく、男性と女性では性嗜好の決定のされ方が異なるのだろうと結論した。