散歩の習慣は骨を強くする

 

 

 血液の中に入ったカルシウムは、血液中での濃度を上げることかく、排泄されるか骨に沈着するかにより、カルシウム濃度の恒常性維持がはかられる。多くの場合、カルシウム摂取量が増えると尿中カルシウム排泄量も増えるが、運動をして骨に荷重をかけると骨芽細胞の活性化と骨の圧電位の発生により骨形成がうながされ、カルシウムの尿中排泄が抑制される。

 

 運動により骨澁が増す作用については、以前から推定されてはいたが、一九七八年に、平均五二歳、閉経後平均五年の女性一八人を二群に分け、週三回、一回一時間の室内運動をさせた群は運動をさせなかった群と比べて、一年後に五%もの体内カルシウム量の増加をみた、といった研究報告が出されることにより、確認された。閉経後の女性は骨量をいちじるしく低下させるが、この研究では一目平均二五分間の室内運動で、骨箙の低下を防止するだけでなく増加までさせたのである。その後、集中的に前腕を訓練したところ、五か月後には訓練をしたがった群にくらべて有意に骨密度が上昇していることもわかった。前腕の訓練とは、腕立てふせをする、壁を押す、ぶら下がる、二人で前腕をねじりあう、などを内容としており、このていどの運動でも、骨格について骨密度を増やせることがわかったのである。

 

 ところで骨にたいする力学的負荷については、大きいほどより骨形成をうながすことから、ジョギング、エアロビクス、重量挙げなど、特別な運動をしなければ十分に骨を強くできないのでは、との考えもあろう。確かに、水泳よりも陸上競技陸上競技よりも重量挙げの方が骨量を多くすることがわかっており、運動時間が長いほど、また負荷量が多いほど、骨量増加に貢献することはまちがいがない。しかし、極端に激しい運動は逆にケガにつながったり、また膝をいためる、腰の骨に病変を発症させる、などのスポーツ障害を招く可能性もある。さらに、一九九七年の国民栄養調査によると、一年以上にわたって一回三〇分間以上、週に二回以上の運動をしている人は、男女とも国民の約四分の一から三分の一と少なく、二〇歳代女性にいたっては約六分の一にしかすぎない。このように、運動というものは実践しにくいものである。

 

 そこで日本人について、散歩ヤゲートボールのような軽い運動がどのていど骨を強くするのかを調べてみた。その結果、散歩の習慣は骨を強くしており、ゲートボールを楽しんでいる人たちの前腕の骨密度は、とくに運動をしない人にくらべて有意に高かった。調査の対象となったゲートボールを愛好する者は六〇~七〇歳代であったが、とくに運動をしない四0歳代の人たちの骨密度と大差がなく、また、その後もゲートボールをつづけていた六〇~七○歳代の人たちは、四年後に骨密度をさらに増やしていた。このことから・、高齢になってから低強度な運動でも骨を強くしうるといえよう。

 

 アメリカのある研究では、職業、趣味、家事の三つの分野について、どのていど体を使うかによって六段階に分類・点数化し、その合計点数と腰椎骨密度との関係を比較したところ、囗常生活の範囲内でも、より活動性が高い人ほど腰椎の骨密度も高い、という結果が出た。したがって、特別な運動をしなくとも日常こまめに動くことが骨を強くするともいえる。

 

 以上の国内外の報告例を総合すると、骨を強くするための運動は、時間が長く、はげしいにこしたことはなく、重量挙げのように負荷が大きいほど有効であるとはいえるものの、運動による外傷や障害、運動のわずらわしさなどを考えると、ゲートボールや散歩などの趣味ていどの運動でもよく、日常こまごまと動くことでも骨を強くすることができる。まとめとして、平均的な日本人は一目五〇〇〇~七〇〇〇歩ぐらい歩いているので、さらに一一〇~三〇分間多めに歩く、すなわち三〇〇〇歩ぐらい追加して、一日八〇〇〇~一万歩ぐらいの運動をすることを日課にすることをすすめたい。

 

 30年前の研究では、カルシウムを多く摂る食事療法が骨を強くするのに効果的といった結果が得られた。そして昨今でも、カルシウム摂取量の少ない人には食事療法をすすめたいが、国民栄養調査では60歳代の男女はすでに所要量以上のカルシウムを摂取しているので、今後は食事によりカルシウム摂取量を増やすとともに運動をするのが得策といえよう。

 

 ある会場に集まった五〇〇人ほどの人たちについて、骨量と食事習慣・運動習慣の両方を調べて比較したところ、食事習慣のちがいよりも運動習慣のちがいのほうが、骨量のちがいを顕著に反映していた。この結果にも見られるように、最近の日本人にとってはカルシウム摂取量不足よりも運動不足のほうが深刻であるといえるので、運動はとくに力を入れてすすめたい。実際、五二歳前後の女性二〇人に、一日三〇分間の散歩と牛乳二〇〇mlの飲用を習慣づけていただいたところ、全員の骨量が増えていた、との報告もあるので、食事療法に運動療法を加えることは理想的であるといえよう。

 

 以上のように、骨を強くする日常生活とは、一日のカルシウム摂取量を二〇〇ml増加させる、夏なら木陰で三〇分間、冬なら手や顔に一時問の日光浴をする、一日三〇分間の散歩を加える、の三つに要約することができる。