アミタールテストに代わる新検査法:rTMS刺激による発語停止で言語野同定の精度アップ


てんかん外科術前検査の定番であるアミタールテストは、大脳半球を片側ずつ麻酔している間に非麻酔側の言語機能や言語性・非言語性記銘力を検査し、言語性優位半球側を決定するものです。しかし、この手技はアモバルビタールを内頚動脈経由で注射するためきわめて侵襲的であり、rTMSを用いたより安全で簡便な代替法が研究されています。これは麻酔の代わりにブローカ野付近を高頻度・高強度rTMSで刺激して一時的に同部位の機能を妨害し、発語停止が誘発された側を言語性優位半球側とする方法です。

はじめにパスカル・レオーネらが6名の右利きのてんかん患者に対して高頻度、高強度rTMSを1秒間投与して発語停止の誘発を試みました。左右それぞれ前頭部から側頭・頭頂部にかけて15か所を刺激したところ、左前頭側頭部のみで発語停止の誘発に成功し、同時に行ったアミタールテストでも言語性優位半球が左にあることが証明されました。他の研究でも、てんかん患者に対してrTMSによる発語停止誘発で調べた言語性優位半球側が、アミタールテストの結果と21名中20名で一致しました。一方rTMSで明白な発語停止を導けたのは成人てんかん患者14人中7名と半数であったとする報告もあります。

だからこれら高頻度、高強度の刺激は刺激部位の不快感を頻繁に生じさせました。この不快感を減らすべく、より遅い4Hzの刺激を用いた研究では、術前のてんかん患者17人中5人でrTMS上の言語性優位半球側がアミタールテストと一致せず、さらに術後に患者の一部に生じた言語性記憶障害はrTMSではなくアミタールテストの結果に一致したといいます。

これら左前頭側頭部の刺激は、運動野にも波及して顎や口部の筋弛緩による構音障害を生じた可能性があり、言語野の機能抑制による発語停止との区別がつかないという問題が指摘されました。これに対してスチュワートらは、筋電図をモニターしながら左半球のローランド野より前方を10HzのrTMSで刺激することで、筋活動に影響することなく発語停止を誘発することに成功し、言語中枢のみと関連した適切な刺激部位の選択によって、言語野同定の感受性をより上げることが可能だと報告しています。

その他の試みとして、健常被験者の単発TMSに対する手指筋の運動誘発電位(MEP)を計測したところ、音読中に全員の利き手側のMEP振幅が有意に増加したのに対し、対側では変化しないかあるいは小さな変化しか認められなかったという研究があります。このグループは、音読が優位半球の運動野手指領域の興奮性を上昇させる可能性があり、この方法で言語性優位半球が決定できるかもしれないと考察しています。