統合失調症者は車を運転してもよいのでしょうか

 統合失調症者が車を運転していいかどうかについては、本人や家族、そして保険会社にとって大切な問題であるにもかかわらず、これまでほとんど論じられませんでした。この問題についての一九八九年の研究では、精神科疾患のない人の九九パーセントが運転をしているのに対して、統合失調症外来患者では六ハパーセントとなっています。統合失調症患者の場合、たとえ運転したとしても、前者と比較してその運転量は非常に少ないという結果も出ています。ただ重要なのは、統合失調症患者の走行距離あたりの事故率は、前者の事故率の二倍であったということです。もっともこの研究の前に行われた二つの研究では、統合失調症者の事故率の高さは証明されませんでした。

 統合失調症者は車を運転してもいいでしょうか? 運転するには、次の三つの独立した技能が必要です。①混雑した道路、暗い道等について、経路を計画し判断を下す力。②たとえば、他の車をいつやり過ごすか等、判断を下し、注意を払うなどの戦略的決定力。③とっさにブレーキを踏むなどの運転操作。患者は抗精神病薬の副作用のために動作が鈍くなることはありますが、運転操作上の問題があることは稀れです。しかし、患者のなかには、明らかに計画力あるいは先を見通した決定力、またはその両方が劣っている大たちがいます。またこれは、彼らが生活の他の側面での計画、判断、そして注意力に障害があることから考えてもわかりきったことです。

 上記をまとめると、次のように言えましょう。大半の患者は運転できますし、また実際に運転しています。しかし、計画力あるいは判断力、またはその両方に障害がある場合は運転すべきではありません。患者の運転能力は抗精神病薬を服用しているか否かがポイントで、一部のてんかん患者と同様に、運転免許証は薬の服用を条件にすることが、理にかなっていると思われます。

身の安全についてはどうでしょうか

 患者は、一般に知られている以上に被害にあっています。比較的重度の患者が州立精神病院から次々に退院させられるようになるにつれ、この被害はより大きなものになってきました。ロサンゼルスのボードアンドケアホームに住む一一四人の患者を対象にした調査によれば、その前年に「ひったくりに遭った」のは二五人(ニニパーセント)、「殴られたり、脅されたり、強姦された」のは三四人(三〇パーセント)でした。公的保護施設にいる、あるいは路上で生活している患者の場合、ひったくりに遭ったり、脅されたりした人の数はもっと増えます。統合失調症の人が警察を呼んだり、告発しようとしても、その障害のために、なにが起こったのかを警察にきちんと説明することができず、逆に不審に思われ、万一法廷にもち込めても、患者は証人としては非常に弱い存在でしかないのが現実です。病院から出された患者の多くは、病院を離れてすぐこのような人生の現実に気がつきます。そして、地域社会で生活するには、脅されることを生活の一部として受忍せざるをえないのです。こういう事情から多くの患者は、安全に感じられる病院、つまり「保護療養施設」に戻りたいと思っています。

 患者の安全を図るために、いくつかの手段が考えられます。グループホームやその他の住居施設を犯罪発生率の高い地域には設置しないこと、これが最も重要です。一人暮らしをしている統合失調症者には、家賃の補助か必要です。なぜなら多くの都市では、SSIやSSDI(公的障害保険)で借りられる住居は、犯罪発生率の高い場所にしかないからです。したがって、小さな町に住む患者のほうが、大都市に住む患者よりも、より安全に生活できるのです。

 患者の安全を図るもう一つの方法は、自己防衛、被害者にならない方法、警察への報告のしかたなどを訓練する場を設定することです。グループホームや、デイプログラム、クラブハウスや集会場などに地元の警察官に来てもらうと、そういった訓練がより効果的になり、また警察と患者とのへだたりをとるうえでも一役買うことになるでしよう。