統合失調症患者の住まい

 統合失調症患者の住まいは、その管理の程度がさまざまな施設、独立住居、自宅があります。専門家が管理する住居

 このタイプの住居は、専門的に訓練を受けた職員によって、ほぽ、あるいは完全に二四時間管理されています。それには緊急施設、ハーフウェイハウス、クォーターウェイハウス〔中間施設の前段階〕、およびこれらに類似した施設があります。マイケルーワインリップの一九九四年の著作『『イランドーロード九番地』には、このタイプの住居がくわしく描かれています。

非専門家が管理する住居

 これらの施設にはパートタイムかフルタイムの管理者が泊まり込みますが、彼らは専門的な訓練を受けていません。フォスターホーム、ボードアンドケアホーム、ポーティングハウス、グループホーム、集合ケアホームなどで、またほかにも同種の施設がありますが、その名前は地域によってまちまちです。定期的な管理がなされる住居

 このタイプの住居は統合失調症の患者が基本的に自立して生活するアパートやグループホームで、通常ケース了不一ジヤーや精神保健専門職が、大きな問題がないかを確認するため定期的(たとえば一週間に一度)に訪問します。

 管理つき住居のその質はピンからキリまであります。一方では、患者に個室と十分な食物が提供される小さなフォスターホームがあり、そこではホームの後援者が患者のようすをわが子のように見守り、気遣ってくれます。これを大規模にしたものがホテルを改築した住居で、経営者が雇用した職員が、居住者のためさまざまな社会的活動を計画し、居住者の服薬を確認したり、歯科診療の予約を思い出させたり、あるいは食料購入券の申請書の記入を手伝ったりします。

 この反対に、暖房、寝具、食物などが不十分で、住居の提供者が患者のわずかのお金をかすめたり、割安な労働力として働かせたり、ときには性的暴行に及んだり、あるいは売春宿に斡旋するようなところもあります。この規模を大きくしたものが、古いホテルを利用した住居で、部屋は荒れ放題でサービスもなく、同様の搾取があるだけといった状態です。

 多くの住居では、その管理が書類上だけという場合がしばしばあります。ボルチモアのあるグループホームでは、二四時間管理体制の「段階的な自立生活プログラム」として許可を得ているのですが、自室で亡くなった若い糖尿病の患者に三日間職員が気づかなかったことすらありました。ニューヨーク市では「ほかに六人の居住者がいたある住居で、患者の腐乱死体が警察官によって発見されたこともありました」。

 多くの地域では居住施設がきわめて貧困なため、州立精神病院から患者を退院させる責任者はしばしば倫理的なジレンマに陥ります。患者は、病院より地域で暮らすほうが本当に幸せなのだろうか? 地域社会にあって生活状況は改善され、社会の犠牲になることなく暮らしていけるだろうか? 私は、多くの患者がどんなにみすぼらしい住居であっても、地域での自分の生活に満足しているのをみると、いつも驚いてしまいます。ロサンジェルスのボードアンドケアホームに居住している患者についての調査では、四〇パーセントが満足しているか、あるいはかなり満足していると答えています。しかしこの答えは入院生活や公的保護施設、路上生活と比較した場合の満足感であると、私は考えています。

 地域で生活する患者にとって、満足できる管理つき住居に共通する特徴とはなんでしょうか? それは四つあります。第一は、そこで居住する人々が単なる家賃の支払者としてでなく、人間として尊重され温かく扱われていること。第二は、最良の住居は一施設あたりの居住人数が多くても一〇人から二一人までであること。五〇人や一〇〇人、それ以上の数の患者のポーティングホームや集団ケアホームはほとんどの場合名ばかりの住居であって、かたちを変えた精神病院の病棟でしかありません。つまりこれは、脱施設化ではなく別の形態の入院なのです。

 第三は、地域社会にある良い居住システムとは、いくつかの連携し合う住居からなり、そこで必要に応じて、その人にふさわしい管理度の住居に移ることができるというものです。統合失調症は再発と寛解〔症状が一時的に治まって安定した状態〕を繰り返す病気ですから、患者が同じタイプの施設にいつまでも居住し続けられると期待するのは非現実的なことです。

 最後に、地域社会にある住居は患者のいろいろな活動と統合されるときに最も意味があるのです。この原則の良い例がフェアーウェザーロッジで、そこでは患者がいっしょに生活し、グループで仕事を契約しています。そうした施設は、どこでも成功しているように思われます。

 地域社会での住居で頻発する実際的な問題は、居住地選択の問題と地域住民からの抵抗です。患者が地域社会で生活することには誰しも賛同しますが、それはその場所が自分たちの近所でない限りでの話です。この問題による地域内での激しい紛争は、アメリカ国内の市や町のあちこちで見られます。精神疾患知的障害の人の共同住居が周辺に及ぼす影響について今まで約四〇の研究がなされてきました。これらの研究を検討すると、「調査対象となったすべての地域で、共同住居のために不動産の価値が下がったところはなく、人の出入りや犯罪が増加したところはなく、近隣の雰囲気にも変化は認められなかった」ことがわかります。統合失調症患者は実際非常に良き隣人になります。もちろんこれは、統合失調症患者が専門的治療とケアを受け服薬を続けていれば当然のことなのです。

ひとり住まい

 他の人々と同居するにせよしないにせよ、患者の多くが自立して生活しており、その数も増えています。この傾向は最近、自立生活の支援と呼ばれています。これには専門職が患者自身で住居を選ぶよう応援するという含みがあります。独居先は、荒れたホテルの一室から、家具つきアパートや一軒家まであり、その質は非常に広範囲です。患者のなかには、とくに病識が不十分であったりすると独立して生活できない人もいます。

自宅

 患者の多くが、家族や親戚と同居しています。これは一部の患者や家族にとっては完全に満足できるもので、とくに大きな問題はありません。しかし、自宅での生活に不満を感じる患者は多く、とくに男性にこの傾向が強いようです。これはなにも驚くことではありません。病気の有無にかかわらず、成人してからも家族と同居していれば種々の問題が起きるのはふつうのことです。